「熱すぎないパッション求む!」これから日本で独立を目指すなら、有機農業を学ぶべし。
written by 株式会社シェアガーデン
千葉県八街市にある『株式会社シェアガーデン』の農場では、有機栽培にこだわったミニトマトやケール、ニンニクなどの野菜が今日も続々と出荷されています。この農場で5年前から働く齋藤さんは、元々東京でIT関係の仕事をしていました。
それまでとは打って変わって、野菜を育てることを仕事に選んだのは一体なぜだったのか。農家としての仕事の苦労や喜びをお聞きしました!
齋藤伊慈(さいとう よししげ)
農業者となって今年で5年目。青森県の住宅街で生まれ育ち、東京でweb広告やマーケティングの仕事をするも、趣味のキャンプを通じて自然の魅力を発見。「自然の力があるからこそ、人はより自分らしくなれる!」と感じ、キャンプ場のイベント企画の会社へ転職。その後農業に興味を持ち、野菜の販売をする会社に2年間勤務した後、関連会社であるシェアガーデンに移籍した。
農業のチャレンジ領域は広がり続けている
―――齋藤さんが農業に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?
齋藤:元々は、東京でweb広告やマーケティングの仕事をしていました。数字を追う仕事やできあいの商品を売り込む仕事は、自分が何をやっているのか実感が持てないと感じていました。
そんな中で「自分の手で何かをつくりたい」という意識が芽生え、商品化されたものや工業製品を扱うよりも、生きているものを仕事として扱いたいという思いから、農業に興味を持ちました。
農業で転職情報を検索すると、地方で住み込みといった内容の仕事が多く、当時東京に住んでいた自分にはハードルが高くて…。そこで、まずは東京で野菜を販売している会社に行って、2年間営業事務をしました。お店から注文をとって生産者に内容を伝えるという仕事です。
でも徐々に、ピカピカになった野菜だけを見てるのは物足りなくなって、実際に手で触れて、育てるところまで携わりたいと思うようになりました。そんなとき、勤め先が自社農場を作ることになったんです。それが現在働いている『シェアガーデン』。ここで初めて野菜を育てる仕事をして、自分は販売とか営業よりもそもそも栽培をやりたかったんだな、と気がつきました。
―――最近ではコロナウイルスの影響もあって、地方で働く若者は少しずつ増えていると感じます。
齋藤:今はどう考えても地方のほうがチャンスはあるんです。特に、畑も土地もこれからはどんどん空いてきますから、農業という仕事において今後チャレンジできる領域は広がっていくと思っています。
僕自身、東京からこちらへ転職して本当によかったと思っています。東京はどこへ行っても人口密度が高いので、コロナ禍では動きづらい環境です。こちらでは車移動がほとんどですし、農業は特にのびのびと仕事ができます。不安も少ないしコロナ以前ともそこまで生活は変わっていませんね。
どんなに過酷でも自然の中だから乗り越えられる
―――企業農家さんのお仕事って、具体的にはどんな内容なんですか?
齋藤:季節によっても変わりますが、今は朝7時に出社して朝礼をして、午前中はミニトマトの収穫をしています。午後はそれを袋詰めする部隊と畑作業する部隊に分かれ、17時まで作業をしたら、終わっていないほうの作業の応援に入ります。そのあとは掃除をして納品する量の確認や翌日の作業の割当といった事務処理をして18時半くらいに退勤します。
冬はケール、さつまいも、にんじんといった根物野菜が中心です。作業自体は収穫作業と袋詰めが基本ですね。
―――大変なのはどんなことでしょうか?
齋藤:シェアガーデンの特徴は、化学肥料、化学農薬は使っていないことなので、当然、除草剤も使いません。雑草を手作業で取るのは想像以上に大変です。特にうちの畑は元々雑木林だったところを開墾しているので、雑草の種がたくさん畑に落ちていて、普通の畑とは比べ物にならないくらいの草が生えてくるんです。5ヘクタールともなると、気が遠くなります。
除草以外にも、収穫も大変な作業です。ニンニクは13万個を手作業で収穫します。根が張っているのでけっこう力が必要で、それを1か月間毎日ずっとやり続けるので、体力と根気が必要です。収穫後は直射日光の元で20kgのコンテナを毎日50個移動させたりと、常に体力の限界に挑戦しているような感じです(笑)。
―――たしかに、夏本番前にしてすごい日焼けですね!これからますます大変そうです。
齋藤:でも、自然のサイクルの中で仕事をしていると、室内で一日を過ごすよりも、気温の変化や日が昇って沈んでいく様子から、時間の流れを感じているので、健全な感覚があります。何かモヤモヤとしたことがあっても、外で仕事をしながら発散されていきますし、どんなに過酷でも自然に触れていられる環境だから、続けられるんですよね。
“有機農家”それはマルチタスクをこなすビジネスマン
―――やりがいはどういったところですか?
齋藤:収穫した野菜の出来が良いと震えるくらいうれしいです。野菜は味と形状を両方良くするのは難しいのですが、実も大きくて形もきれいで、味も良く栄養価も高い理想的な野菜ができたときは、いつも以上に「届けたい!」という思いも強くなりますね。
実際食べた人からも、「味が濃くて甘い」、「他の野菜とは違う」といった感想をいただくこともあって、苦労して育てた甲斐があったなと思います。
―――やっぱり、手をかければかけるほどおいしいものができるんですか?
齋藤:有機農業は手をかけるところがまず土なんです。土で野菜を育てるという考え方なので、土の中の微生物の多様性がある土をつくるところから始まります。有機肥料も使いますが、うちは基準の半分の量しか使いません。というのも、土の力をどこまで引き出せるかというところにチャレンジをしているからです。
―――ビジネスとしての農業のおもしろさってどんなところでしょう?
齋藤:農業ってビジネスとして非常に難しいんです。天候にも左右されるので先を読むのも大変だし、資材の発注も細かく、常にマルチタスクをこなす必要があります。ビジネスマンとしてかなりタフさを求められるし、経営していくのも普通の仕事よりも圧倒的にハードです。でも続けていると「すべてを把握して判断する」ことができるようになってきて、ビジネスマンとして力がついてきているなという実感があります。
―――具体的にはどんなスキルが必要になってくるんですか?
齋藤:まず、計画性です。天候も含めた収穫時期の見込み、そしてお客さんへの出荷の割り振り。苗を植える、水をやる、収穫、袋詰め、伝票を書く、電話対応というのを同時進行でやっていきます。複数のタスクを時間内にどう処理していくのか、という「段取り力」は、一般的な会社員よりも求められる力です。農業というと自然に囲まれてのんびりというイメージを持ちがちですが、季節にも野菜にもお客さんにも追いかけられ、一年中走り続けているんです。
―――それだけ忙しいとスタッフ同士、ピリピリした雰囲気になったりしそうですね…
齋藤:繁忙期になるとみんな各々の仕事に追われているので、ピリピリというより、「任せた!」という感じで、それぞれが持ち場の作業を責任持って終わらせています(笑)。
社員同士の雰囲気は、体育会系というよりはやわらかい雰囲気の人が多くて、体力的にきついだけで厳しい雰囲気ではないです(笑)。
でも、現状では全然人が足りていないので、販売のほうも既存のお客さんとのやりとりで手一杯で…もっと手分けしてできれば、新規のお客さんに商談に行くこともできるし、他の農家さんへの視察や、お店とのコミュニケーションも取れます。今後は、会社に良い影響を生み出せる時間を作っていきたいですね。
独立OK!企業農家だからこそ学べることがある
―――これからどんな人といっしょに働きたいですか?
齋藤:僕の考えでは、熱すぎるパッションを持っている人は長く続かないと思っていて(笑)。肉体的にハードな仕事なので、独立したいという目標や農業への思いがないと乗り切れないのはたしかですが、自分のペースで仕事ができるわけではないので、理想と現実とのギャップで辞めてしまう人もいます。
なので、情熱を静かに内で燃やしながら、忍耐強く力をつけていくことができる人が良いですね。野菜が好き、自然が好きな方ももちろん大歓迎です。
―――今後、挑戦したいことなどはありますか?
齋藤:独立したいという思いはずっと持っています。会社でできることは個人でできることよりも規模が大きいと思います。だからまずは企業農家として経営的な視点も含めて会社を運営していく力を身につけたいと思っています。
職場に対しては、みんなが働きやすい環境をつくっていきたいです。スタッフが自分の家族や友達を招きたいと思うような農場になっていくと良いですね。
―――独立を目指して入社してもOKなんですか?
齋藤:もちろんです。そのくらい目的意識が明確なほうが良いですね。2年間の農業研修生も募集していますが、それを終えて辞めるのも全然OKです。社員で居続けることよりも関係性のほうが大事だと思っています。「今忙しいから手伝ってもらえない?」と、お互いに助け合えるような長期的な関係になれると良いですね。もちろん、ずっと会社を支えてくれる人に出会えたらうれしいですけどね。
―――最後に社長の武内さんから、読者の方へメッセージをお願いいたします!
武内社長:今日本では、民間企業の農業進出も盛んです。有機農業の経験があれば引く手あまたの人材になれると思うんです。早いうちに農業技術を身につければ、食品業界であればどこでも仕事ができます。
ハードな仕事を乗り越えるには、自分が何をやりたいのかという目的を持つのが大事です。単なる小手先の技術だけを身につけるのではなくて、目に見えない微生物で土の中をコントロールするという有機農業の原理に従って仕事をするのが重要です。だからこそ、個人の持っている感性や好奇心が一番大事です。好奇心旺盛な人とぜひいっしょに働きたいですね。
農業経験はなくてもOKです!教えられるのは僕が元気なうち。もう年ですから、早めに来てくださいね(笑)。
取材を終えて
良い野菜ができると震えるくらいうれしいと話す齋藤さん。どれだけ過酷な仕事でも、収穫の喜びはそれを凌駕するものなのだとお話を伺いながら感じました。今後ますます農業者が必要とされる日本で、有機農業をイチから学べる環境はとても価値のあるもの。夢を持つ人も、これから探す人も、シェアガーデンという自然に囲まれた職場での経験は、後の人生で必ずや豊かな財産となるのだと思います。