ぶどう園でかんぱーい!4代目ワイナリー社長に聞いた、人々を笑顔にする最高の仕事
written by 川西里奈
コロナ以降の世の中では、お酒の提供やイベントの開催は自粛を強いられてきました。そんな中「困難な時代だからこそ、楽しくワインを飲んで欲しい」そう話すのは、富山県富山市で『やまふじぶどう園』を展開・運営する『ホーライサンワイナリー』の経営者、山藤智子さん。
現在、ご家族3世代で運営するやまふじぶどう園では、収穫祭や音楽イベントを開催したり、ワインが飲めるカフェも併設しているのだそう。その歴史やお仕事の魅力について、たっぷりお話を伺いました!
山藤智子(やまふじ ともこ)
富山県富山市出身。やまふじぶどう園を運営するホーライサンワイナリー株式会社の4代目社長。高校生のときに海外へ留学、卒業後に山梨大学のワイン研究所で醸造を学ぶ。19歳で上京し百貨店で接客業を経験後、21歳で富山県へ戻りホテルのフロントや法律事務所、貿易事務などさまざまな職に就く。2021年にやまふじぶどう園(ホーライサンワイナリー株式会社)の社長に就任。
やまふじのワインは“誰かと過ごす楽しい時間”のためにある
__やまふじぶどう園は、北陸で最も古いぶどう園とワイナリーと聞きましたが、どれくらいの歴史があるのですか?
山藤智子さん(以下、山藤):先代が1927年にぶどうの樹を植えたのが始まりで、1933年にワインの醸造免許を取得し、ワインを造り始めました。なので95年くらいの歴史がありますね。初代が植えたぶどうを、代替わりしながらこれまで必死に守ってきました。
__初代の方がぶどうの樹を植えたのはなぜだったのでしょう?
山藤:大正の末期、戦乱の世の中で富山県から米騒動が始まりました。お米や日本酒が手に入らなくなり、初代である曽祖父はお米のように水を必要とせずに栽培ができるぶどうで酒を作ろうと、近所の方々と協力して山を開拓し、ぶどうの樹を植えたそうです。よっぽどお酒が好きだったんでしょうね(笑)。
でも、当時の曽祖父の気持ちが少しわかる気がするんです。私も今、コロナや戦争で暗い雰囲気が漂う今だからこそ「みんなを楽しませたい、おいしいお酒を造りたい!」という使命感が湧いています。きっと混沌とした世の中におかれた曽祖父も、そんな気持ちだったのではないでしょうか。
__やまふじぶどう園で造っているワインにはどんな特徴があるのですか?
山藤:うちのワインは甘口やすっきりとした辛口など、ワイン初心者の方でも飲みやすいものが多いです。お料理にも合わせやすく、お刺身にも合う赤ワインもあります。お好みに合わせて、ジュースや炭酸で割ったりして飲んでいただくのもOKですよとお伝えしています。
__そうなんですか!ワインって大人なイメージがあったのでそれは少し意外でした。
山藤:うちのワインは、“ひとりじゃなくて誰かと飲んで欲しい”そんな思いを込めて造っています。大事なのは楽しく飲んでいただくこと。誰かといっしょにご飯を食べたりお話をしながら楽しい時間をともに過ごす、うちのワインはその時間の引き立て役です。
名前やラベルのデザインは家族3世代でワイワイ飲みながら味のイメージを言葉にして、ああだこうだ言いながら決めています。そのうちにだんだん酔っ払ってきちゃうので、ひとりはいつもメモする担当をしてもらいます(笑)。
__ぶどう園の中には、カフェやイベントスペースもあるそうですね。
山藤:やまふじぶどう園の最大の特徴は、みんなが集まれる楽しい場所であることです。ぶどう園の中にはカフェもあって、四季折々のぶどう園を眺めながら、旬の食材を使ったランチや季節限定のスイーツを楽しんでいただけます。
ぶどうの摘み取り体験や試飲会だけでなく、音楽やヨガ、サウナやキャンプなど、老若男女問わず誰にでも楽しんでいただけるさまざまなイベントも開催しています。
ぶどう園という異空間でワインを飲んで音楽を聴いたり踊ったりすると、自然と絆が生まれたりオープンな気持ちになれたりするんです。8月にも大きなイベントがあるのですが、音響さんもアーティストさんも一流の方が来られて、ここに集う人全員に楽しんでいただける最高のイベントになる予定です。
__楽しそう!行ってみたいです!!
やりたいことを全部やって、行き着いたのはぶどう園だった
__智子さんは幼い頃から、ぶどう園のお仕事を継ぎたいと思われていたのですか?
山藤:子どもの頃は嫌で嫌で仕方なかったですよ!(笑)。父親はバイトを掛け持ちしながらぶどう園とワイナリーの仕事をしていましたから、忙しい時期には家族総出でその手伝いをしていました。
私は小学生の頃から夏休みにはひとりで道路の脇にテントを張って「こちらは辛口です!」とか言いながらぶどうとワインを売っていたんです。今の世の中じゃ考えられないですよね!(笑)。
その頃からずっと、将来の夢は会社員の嫁になることでした(笑)。サラリーマン家庭に憧れがあったんですね。21歳のときに結婚して念願の会社員の嫁になりましたが、いざ専業主婦になると、本当につらかったですね。
__え!どうしてでしょうか?
山藤:お金ももらえないし誰からも褒められないし終わりもないじゃないですか(笑)。だからその後は、パートも含めいろいろな仕事を経験しましたね。大手企業のOLや貿易事務などとにかくやってみたいと思う仕事は全部やりました。
仕事に慣れてくると、企業での働き方に疑問を感じるようになりました。早く終わったからといって休憩していると怒られたり、上司に意見する人よりもご機嫌をとるのが上手い人が評価されていたり。海外の高校へ通っていたとき、自己主張することの大切さを学んでいたので、考えずに言われたことをこなせばいいという環境は何か違うんじゃないかなって。
__その後、ぶどう園へ戻ったのはどうしてだったのでしょう?
山藤:一番は、子どもに選択肢を残しておきたかったからですね。子どもたちが就職するときに、企業に入るのも好きなことをやるのもいいけど、ぶどう園という仕事が選択肢のひとつにあったらおもしろいじゃないですか。そんな思いと、親にも少し楽をさせたあげたいなという思いもあり、いろいろな仕事を経験しながらぶどう園の仕事も手伝っていました。
コロナで状況が落ち着かない中、2021年5月に代表に就任しましたが、“できなくなることよりもできること”に焦点を当てて、うちならではのやり方、今だからこそ何ができるのかを考えながらやってきました。以前は600人規模の収穫祭を行っていましたが、コロナ禍では人数を減らし、回数を増やしてイベントを実施しました。
昨年からは醸造長もやらせてもらって、とてもワクワクしています。課題はいろいろとありますが、新しいかたちをみんなで考えながらやっていくのはとても楽しいですね。
__今のお仕事の楽しさってどんなところでしょうか?
山藤:お客様と飲める仕事って最高じゃないですか?(笑)。試飲で来られるお客様と、私もいっしょに飲んでお話をしますが、その時間には今後に活かせるヒントがすごくたくさんあるんです。次はこんなの造ろうかな、こんなことをやってみようかなと。
「昔、おじいちゃんが好きだったんです」と言ってお孫さんがワインを買いに来ることもあって、そのおじいちゃんの顔を想像すると涙が出るくらい嬉しいですね。やっぱり、その思い出に恥じないワインをこれからもずっと造らなくてはならないなと思います。
人を楽しませるとき、自分が一番楽しんでいることってとても大事だと思うんです。家族で楽しんで造ったワインだから、飲む人も楽しくなってくれるんじゃないかなと思っています。
「楽しい働き方を提案したい」富山の未来を造る新事業
__これからやっていきたい取り組みなどはありますか?
山藤:富山県の働き方をもっと良くするための新事業を考えています。富山県ってこんなに豊かで素晴らしい土地なのに、最近では人々の幸福度が下がってきていて、うつ病の人も多く、働きやすい企業もまだまだ少ないという厳しい現状です。このままでは若い人がどんどん外へ出て行ってしまいます。
そんな状況を少しでも変えられるように、悩みを抱えた人たちが、気軽に相談ができたり、企業の皆さんで農業体験に参加してリフレッシュができたり、さまざまな道のプロたちの講演を聞くことができるなど、富山県の未来へつながる場所として発展していけたらと思っています。
__やまふじぶどう園という場所が、富山県の人の心の支えになるかもしれませんね。
山藤:結局人は、人とのつながりがなくては何もできないんです。やまふじぶどう園は、「あそこに行ったらほっとする」と感じてもらえるようなあたたかさがあり、本音で話せる場所として皆さんに認識してもらえたらいいですね。昔は、お客様は神様と言われて育ったんですが、今では「お客様は家族だよね」ってみんなで言っているんです。
その家族が県外にも増えていって「やまふじがあるなら富山に住みたいな」って思う人なんかが出てきてくれたらとてもうれしいですよね。
8月に建物を増築する予定なので、そうすれば季節や天候を問わずイベントを開催できるようになります。楽しい働き方を提案して、みんなが楽しく生きれる富山県を目指して、これからがんばりたいと思います。
取材を終えて
智子さんの放つエネルギッシュな空気に包まれワクワクした今回のインタビュー。緊急事態宣言下ではすぐさまぶどう園を学童として開放するなど、“今だからこそ、自分だからこそできること”に焦点を当てて行動している智子さんの姿から、どんな状況でも前向きに楽しむことで新たな可能性が生まれるのだと感じました。
山藤家の皆さんが楽しみながら造ったワインだから、それを飲む人も楽しくなれる。やまふじぶどう園に集う人々がつながって、より大きな力が生まれていく未来がとても楽しみです。
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