老舗めっき加工会社「ユニゾーン」。育んできたのは、オンリーワンの技術力と地域愛
written by 川西里奈
富山県富山市に本社をおく創業67年の株式会社ユニゾーン。電気めっきなどの表面処理加工を中心に、自動車や機械設備、医療・航空機器、ロボットなど、幅広い分野に対応した高い技術力を誇っています。同社の会長である梅田ひろ美さんに、ユニゾーンの持つ理念や仕事の魅力についてお聞きしました。
梅田ひろ美
株式会社ユニゾーン代表取締役会長。1988年に株式会社富山メッキ(現・株式会社ユニゾーン)に入社。富山商工会議所常議員、平成29年6月まで富山県商工会議所女性会連合会長を務める。2022年春の叙勲で旭日双光章を受章。
日本のものづくりを支えるめっき加工技術
__ユニゾーンはどんなことをされている会社なのでしょう?
梅田ひろ美会長(以下、梅田):ユニゾーンは自動車部品や産業・工業機械の部品、電機部品へのめっき加工を手掛けています。お客様からお預かりした製品にめっきの技術によって付加価値を付けてお返しすることが私たちの仕事です。
製品の表面を金属の薄い膜で覆うめっきは、さびの防止や見た目を良くするだけではなく、素材の強化や通電性、磁性、光反射の性能を上げる効果もあり、高度化するものづくりを支える重要な役割を担っています。
近年では製造拠点を海外に移す企業も多く、国内でめっきを手掛ける企業が生き残るには、微細な部品の取り扱いや高度な技術が求められています。そうした中、ユニゾーンでは38ラインをもって46種類のめっき加工が可能で多様化するニーズに対応しています。
▲産業部品から電子機器部品まで多種多様な製品へのめっき加工を手掛ける
__ユニゾーンの前身となる富山メッキは1955年にお父様が創業されたそうですが、当時のことなどは覚えていらっしゃいますか?
梅田:私が小学校の1年生のときでしたが当時のことはよく覚えています。父は第二次大戦に召集され、終戦を迎えた後にシベリア抑留を経験しています。極寒の地での強制労働に耐え、帰国してからは戦前に勤めていた不二越鋼材工業株式会社に復職しました。そこでは自動車工場のめっき部門を担当しておりましたが、工場が閉鎖となり1955年に有限会社富山鍍金工業所を設立しました。その後順調に会社は取引先を拡大し、1965年には社名を株式会社富山メッキに変更しました。
__その後、ひろ美さんが取締役になられてから、なぜユニゾーンという社名に変更したのでしょうか?
梅田:会社を経営するにあたり、父の大事にしていた理念である“地域とひとつになって歩む”という意味を込めてユニゾーンに変更しました。従来のめっき業のイメージである、きつい、汚い、危険という3Kのイメージを変革し、若い人にも親しみを持っていただきたいという思いもありました。
▲常に新しい技術、新しいシステムの導入に取り組んでいる
業界でも高い技術力を維持しながらオンリーワンの企業になることを目指し、それまでの3Kではなく「感謝、感動、感性」の3Kを会社の理念として成長してきました。
父は私とは対照的な性格で、寡黙で真面目でうちに秘めた強い思いのある人でしたが、社名の変更を提案した際にも「好きにしなさい」と私に何でも任せてくれたのはとてもありがたいことでしたね。
▲創立45周年記念事業の一環として本社工場の向かい側に建設した「ユニゾーンアネックス」
創業時から続く、御用聞き型の営業スタイル
__自社の一番の強みはどんなところでしょうか?
梅田:創業当時から続けている、当社からお客様に直接トラックで製品を届けるという営業スタイルが我社の強みです。
毎日もしくは2日に1回、自社のトラックをめっきの専門知識のある営業担当者自らが運転して、お客様のところを訪問します。そこで要望や困りごとを聞いたり加工の仕方や納期についてなど細かく打ち合わせをします。
▲自社のトラックでお得意様を訪問し、集荷・納品までを行う
__営業の方が直々に製品の受け取りや納品に訪れるのは、お客様にとって安心感がありますね。
梅田:お客様の要望をお聞きするのと同時に製品をお預かりし、納品時にも新たな製品の打ち合わせが可能なので、お客様にとっての利便性も大きいと思います。
「お客様に喜んでもらうため」というひとつの目標に向かってがんばってくれる社員が多く、結束力が強いことも会社の強みのひとつですね。
__めっき業のお仕事の魅力はどんなところだと思いますか?
梅田:うちはメーカーではなくて、メーカーの作ったものに付加価値をつけて喜んでもらう、サービス業です。なのでお客様に喜んでいただけることがこの仕事の一番の魅力だと思います。父が目指した「地域に根ざしためっきのデパート」は、社員の細やかなサービスと真心のおかげで実現しているのだと感じます。
私は幼い頃から父の苦労している姿を見てきたので、会社を継ぐのはすごくいやだったんです。でも会社に入ってめっきというものに触れているうちに、だんだんとその魅力に気がつきました。私はもともと美術品や絵画といった美しいものを見るのが大好きです。めっきにもさまざまな種類があり、多様化する目的に応じた技術はとても奥深いものだと感じます。めっき加工技術の素晴らしさを、若い人にも知っていただけたらとても嬉しいですね。
▲「趣味で集めた絵画や美術品などは社内にも展示しています」梅田ひろ美会長
__働きやすい職場環境づくりにも力を入れられているそうですね。
梅田:女性が長く活躍できるように産休・育休制度を整え、砺波市には研修や社員の交流の場として利用できる、茶室などを備えた古民家もあります。月ごとに誕生日の社員との食事をするなど、一人ひとりと話をする時間を設けたりもしています。これからもみんなが楽しんで仕事ができる環境を作っていきたいですね。
富山県の秘める潜在能力を次世代に広めたい
__富山県の魅力はどんなところでしょうか?
梅田:富山県は昔からものづくりが盛んな土地ですから、めっきの需要は高く、めっきに必要な水や電気といった資源も豊富です。また全国的に見て災害も少なく安心して過ごせるのは、立山連峰に守られているからではないかな、と感じます。立山連峰の自然は本当に素晴らしく、雄大で連なる山々を眺めていると悩み事などは本当に小さなことに感じますね。
こんなに魅力のある富山県ですが、一度県外に出ると戻ってくる若い人は少ないです。富山県に魅力ある企業を増やすことは我々経営者の責務であると思っています。
▲新入社員研修でのめっき実験の様子
__最後に、次世代を担う若い人たちにメッセージはありますか?
梅田:好きなことをやること、何でも身を持って経験することが大事だと伝えたいです。今は興味のあることは何でもインターネットで調べることができるけど、調べただけでわかったつもりになるのではなくて、自分の手や足を動かして何でも経験してみてほしいです。そうすると、自分の知りたいことだけじゃなく、その周りのことや世の中のことも知ることができると思います。
若い人たちや社員には、世の中の先を読む力をぜひ養っていってほしいです。実際にいろいろなものに触れることで生きた情報を得て、お客様が何を求めているかを考えて、失敗を恐れずに挑戦していってほしいですね。
取材を終えて
あらゆる部品に施されるめっきは、実は私たちの日常生活にとって欠かせない技術のひとつです。そんなめっき界の最先端を走るユニゾーンは、世界に引けを取らない技術力を持ちながらも、地域企業とともに歩むことを第一に発展を続けてきました。富山県の魅力ある企業として次世代の未来を担うユニゾーン、今後の展開が楽しみです。