富山の風土から生まれた革新的な事業モデル。造園×農業AI×インテリアで目指す安定雇用
written by 川西里奈
富山県高岡市を拠点に多彩なサービスを展開する「とやま緑地設計」。造園業にとどまらず農業代行や家具製作などの事業を通じて地域密着型のサービスを提供しています。同社を率いる高畑社長に、多角的なビジネス展開のきっかけを伺うと、“冬の富山”ならではの意外な背景についてお話を伺うことができました。
高畑 知明
「とやま緑地設計合同会社」代表。樹木医や一級造園施工管理技士の資格を持つ。富山県立高岡南高校を卒業後、名城大学農学部で植物生理学を専攻。約20年間、富山市内の造園会社で勤務し、公園や企業緑地の管理責任者、公共外構工事の現場責任者としての実績を積む。樹木医として樹木診断や樹勢回復治療にも携わる。趣味は登山や神社・仏閣巡り。
革新的な技術で、農作業を手軽に身近に
ーーー「とやま緑地設計」はいくつかの事業を展開しているそうですね。どのようなことをされている会社なのでしょう?
造園・ガーデニング事業では住宅や公園の庭づくりから樹木の管理などを手掛け、地域の自然環境を豊かにする活動を行っています。
デジタル農業サポート事業は、農業AIブレーン「e-kakashi(イーカカシ)」を導入し、ゴルフ場の芝生の育成サイクルを分析し管理をしたり、水田の環境データをとりお米の栽培レシピを作成するなど、農業の労働力削減に取り組んでいます。
農業代行サービスとしてドローンを活用した効率的な農作業を提供する取り組みも行っています。例えば夏場に田んぼに殺菌剤や殺虫剤を散布する作業を行います。これまでは大変な労力がかかる作業でしたが、ドローンを使えば1ヘクタールの広さをわずか10分で終わらせることができるんです。このサービスにより、少人数で広範囲の作業が可能になり農家の労働負担を軽減しています。
冬の課題から生まれた新事業「前沢クラフト」
ーーー「とやま緑地緑地設計」のインテリア商品製造部門の「前沢クラフト」とはどのようにして生まれたのでしょう?
「前沢クラフト」は「とやま緑地設計」のインテリア商品製造事業から派生したインテリア部門の事業部です。
富山は冬になると雨や雪が多く、その影響で造園業や農業は冬の間どうしても仕事ができなくなってしまいます。富山県には兼業農家が多いですが、農業だけでは年間通して安定した収入が得られないというのもその理由のひとつだと思います。
社員の安定した雇用を守るために冬季でも収益を生み出す事業の必要性を感じました。みんなで相談して出たアイデアが、「これまでにないインテリア家具を作る」ということでした。こうして誕生したのが天然木を使った家具制作を行う「前沢クラフト」です。
高岡市京町にある明治7年創業の「有限会社のと作銘木店」と提携しており、500枚以上の様々な材種やサイズの一枚板から形状やデザインをオーダーメイドしていただけます。
ーーー具体的にどのような製品があるのですか?
バイオフィリックデザインという理論を取り入れ、天然木の欠けた部分や節のある木材に樹脂を流し込んだ、一点物のレジンテーブル製作に力を入れています。
バイオフィリックデザインとは空間に自然の要素を取り入れ、人の健康と幸福を向上させるデザイン手法です。近年、オフィスやカフェやホテルのロビーといった空間に、植物や自然美を積極的に取り入れる動きが広がってきています。実際にバイオフィリックデザインを採用したオフィスで働く人のほうが、そうでない人に比べて幸福度が15%向上したというデータもあるんです。
このレジンテーブルは、デザイン会社のオフィスや飲食店などからも注文をいただいています。今後は海外向けのECサイトでの販売も予定しています。
富山の誇る米作りを未来に残したい
ーーー高畑さんが農業を支援したいと思ったきっかけは何だったのでしょう?
富山県では米作りが盛んで、うちの実家も兼業農家でした。農業が身近にある生活を送る中で、多くの課題を感じていました。農作業は体力を要するうえに高齢化が進行しており、若い世代が農業に参入することが少ないという現状があります。農業=大変で儲からないといった世間のイメージをなんとか変えることができれば、富山県の誇ってきた米作りも次世代に存続していけると思うんです。
そのために、最新技術を取り入れた効率化や高価な農機具のシェアリングなど、地域全体で支え合える仕組みを作ることも大切だと考えています。こうした取り組みを通じて、農業の魅力を次世代に伝えるとともに、持続可能な産業構築を目指しています。
ーーー 会社経営で最も大切にしているのはどんなことですか?
もちろん利益も大切ですが、社員が感じるやりがいと世間のニーズをマッチングさせることを最も重視しています。例えばレジンテーブルの製作も、とやま緑地設計の社員が職人としての技術を活かして、前沢クラフトでも活躍してくれているのでできていることです。ひとりひとりの特性を活かしながらも、世の中の人が喜んでくれることを事業としてやり通していきたいと思っています。
ーーー最後に、高畑さんが今後の事業を通じて実現したいことについて教えてください。
会社の名前はとやま緑地設計ですが、私は設計の図面が書けるわけでもありません。この社名には、富山県の農業全体が将来に向けて持続していける仕組みを設計していきたい、という思いが込められています。
外仕事が困難な冬をチャンスに変えて、持続可能な雇用と収益を創出するモデルを示すことと、農業の敷居を下げて日本中の人々が少しずつ農業に関わるきっかけづくりをしていきたいと思います。
将来的には食糧自給率の向上や農村地域の活性化につながり、日本の農業の未来が少しづつ明るくなっていくのが理想です。ここ富山県高岡市からそんな動きを創ることができたらいいですね。
ーーー高畑さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
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