「好き」が仕事になるってどんなだろ? 地域に愛され53年。「福岡篠栗モーター」社長が語るクルマで働く幸せ。
written by 崎村 一成
仕事の原動力ってなんだろう?お金、評価、社会貢献…いろいろあるけどやっぱり大事にしたいのは、好きだという自分の気持ち。九州の「福岡篠栗(ささぐり)モーター」には、そんな自動車愛を共にする社員が集まっている。個性の強いメンバーを率いる社長に、たっぷりと会社自慢をしていただきました。
井上健二
福岡篠栗モーター株式会社 代表取締役
健二さんってこんな人
生まれも育ちも福岡県篠栗町で、一度も住民票を移したことがない生粋の“篠栗人”。先代が営む整備工場を遊び場に育ち、自身も自然と車の道へ。町内の頼まれごとはまず断らない地域愛の人でもある。趣味は相撲観戦。力士と車の名前は一度聞いたら忘れない。
建屋は古いが設備は一級品
―――おじゃまします…わっ!すごい数の賞状ですね!
井上:創業して53年だからね…環境に優しい自動車整備工場の表彰とか、地域の消防の感謝状とか、長年商売を続けていると、ありがたいことに褒めていただけることもあるんです。
―――53年!井上社長はじゃあ…
井上:そう、私は2代目です。先代が整備工場を開いたのが1967年。いまでは整備から鈑金塗装、新車・中古車販売、保険、レンタカーまで、車のことなら何でも引き受ける事業体になりました。
―――なんでも引き受けちゃうなんてお客様からするとありがたいですね!
井上:車のことでお客さまの注文を断ることは、ほとんどありません。仕入れから設備、人材まで、おおよそのことは引き受けられる環境を作っていますから。
建屋は古いですが導入している設備なんかは特に充実していますよ!たとえば「ジグ式フレーム修正機」とか「車体三次元測定器」とか「四輪アラインメントテスター」とか…
―――おお…正直何かはわからないけど、かっこいいです!
井上:最近導入した「タイヤチェンジャー」は、トランプ元大統領が乗っていた「ビースト」が履いている28インチのタイヤまで交換できるんです。
―――トランプ元大統領のタイヤ交換ができるのは、すごい気がします。
井上:つい最近、こんなこともあったんです。ポルシェのオーナーさまがホイールのバランス調整が取れなくて困っていらした。あちこちに電話したけれども、どこの整備工場でもできない。
それが、たまたま弊社に電話をいただいた日に新しい「ホイールバランサー」が入ってきて、第一号はうちでやることができたんです。
―――設備が整っていると、お役に立てることが増えるんですね。
井上:そのとおりです。それにできることの幅が広がれば、お客さまにも自信をもって営業することができます。自動車の技術進歩は目覚ましいですから、最新設備の導入と勉強は欠かせません。
車への情熱が武器になる
―――たしかに、最近はEVや水素自動車、OBD車検など、自動車業界は何かと話題が多いですね。働く方々も時代を追いかけるのが大変でしょうか。
井上:もちろん努力は必要ですが、この会社は車が好きな社員が多いので、勉強もそう苦労をしていないのではと思います。
パンフレットに載っていないようなことを知っていたり、一人で4台も5台も中には11台も車を持っていたり…最近入社した新人は「毎日車に触れるのがありがたい。日にちが経つのが早い」と言っていましたよ。私でも想像を超えるような車好きです(笑)。
―――11台!?愛がすごいですね…その情熱は仕事にも生かされているんですね?
井上:一度お客さんから「車好きが洗車をした場合と、そうじゃない人が洗車をした場合は違う」と言われたことがあります。「車好きというのがわかりますね」と。
車好きは、同じ洗車でも勘所が違うんでしょうね。ドアの内側に残りがちな雫だとか、そういうところまで手が行き届いていたんでしょう。
車を大事にする人は、同じように車のことが好きな人にサービスを受けるとうれしいんです。そういうお客さんとはますます関係が深くなって、ご家族の代が変わっても、お客さまになっていただける。
―――私も車を買うなら、車に興味がない人よりも、思い入れが深くて、幅広い知識がある方から買いたいです。
井上:そうですよね。社員が「車好き」だということは、最新設備にも負けない弊社の強みだと思います。
―――井上社長も、もちろん車が好きなんですよね!?
井上:私も車は好きだけど、のめり込むような「好き」じゃないんです。物心がついた頃から身の回りにあったから、車に飢えていなくて…でも、それでいいと思っています。酒屋の大将が酒好きじゃいけないでしょ?
それよりも、従業員がのびのびと仕事と向き合えるようにしていきたいと思っています。
一人ひとりに合わせて、みんなが満足する会社
―――なるほど。経営をする上で大切にしていることはなんでしょうか?
井上:一つには、社員さんがスキルを上げるためのフォローを必ずしないといけない。たとえば営業の方であれば、販売から保険、整備、売買契約書の書き方といった書類仕事まで、幅広い知識が必要です。なので、社員を勉強会に送り出したりするなど、教育には力を入れています。
それに私も社員を観察していますから。何か困っていそうだなと思えば声をかけて、一緒に考えます。やっぱり話して問題を解決するのが一番ですから。
―――社長のデスクも社員のみなさんの隣りにあって話かけやすそうです。
井上:もう一つ。ここ1、2年、コロナで大変だったにも関わらず数字が伸びているのは、私が見えないところでみんなが一生懸命やっているからだと思うんですよね。だからそれには応えてあげたいね。
今は給与の決め方も転換期。成果を追い求める人にはそれに応えてあげたいし、「ゆっくり働きたいです」という人には、無理に頑張れとは言わないし。一人ひとりに合わせてあげないと、無理が生じるからね。成果報酬型の給与体系の取り入れには難しさを感じているところだけど、これからの時代は必要だと思います。
―――社員一人ひとりの希望と向き合おうとしているんですね!
地域のインフラを支える責任
―――では、経営面での目標はなんでしょうか?
井上:地域の人に寄り添いつつ、さらに多くの方に頼られる存在になりたいですね。やっぱり車はインフラやね。生活になくてはならないですから。
最近は跡継ぎがいない整備工場も結構多いんですが、そうすると、やがては整備に困るお客さんも出てくると思います。
新車の営業所は、車が売れなくなると撤退していきますよね。でも地域に車はあるし、私たちは撤退するわけじゃない。いつまでも地域の車を支えていかなくちゃならない。
実際、お客さまの車輌の管理台数は増えているんです。でも、私たちの人手が追いついていない。なので新しい人に入っていただいて、これまでのお客さまをフォローアップしていきながら、さらに隣町、そのまた隣町へと認知を広げていきたいですね。
―――地域に貢献したいという想いを強く感じます。
井上:もともと地元で友達や先輩後輩も多いですから。人でつながっているんですね。催しごとには車を無料で貸し出したりもしますし、先代から、できるだけ地域のために役割を果たしていこうという考えでやってきました。
トップレベルの仕事に携わる
―――では最後に、車に関わる仕事に就くことの魅力を教えてください。
井上:やっぱり日本車ってすごいんですよ。世界を見渡しても、日本のメーカーはトップレベルにある。日本の貿易黒字に占める車の割合も高い。
社員には「トップレベルを扱うんだから、あなたがたもトップレベルにならんとあかんよ」と言っています。日本の車に携われることは、すごいことなんです。
自動車業界は今、100年に一度の大変革時代を迎えているといわれていますよね。これからは、電気系統の知識を学んだり、法律の知識のアップデートも必要になってくる。お客さまのため、地域のため、車が好きだという気持ちを生かして貢献できること。これが魅力ではないでしょうか。
編集後記
好きだから頑張れるし、好きだから誰よりも詳しくなれる。その結果、自分の仕事がお客さまの信頼や喜びに変わっていく…そんないい仕事ってあるんですね。うらやましくなる取材でした。最近、二人の新入社員が入ったという福岡篠栗モーターさん。「まだまだクルマが好きな若い人がいるとわかってうれしいねー」と話す社長の朗らかな笑顔が印象的でした。
執筆:大谷 徹(tecotoca)
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