どん底から頂点を目指す『福島レッドホープス』義理人情を貫く女性副社長、涙のワケ!
written by 川西里奈
日本の野球界の裏側では、どんな人がどのように働いているのか、知らない人も多いのでは。福島県郡山市の事務所で迎えてくれたのは、とっても優しそうな笑顔の女性。プロ野球独立リーグのBCリーグに所属する『福島レッドホープス』の副社長、高橋柾由美さんです。スポーツとは無縁の人生を送ってきたと話す高橋さんが、なぜ球団の副社長になったのか、どんなお仕事をされているのか、気になることをたっぷり伺いました!
高橋柾由美(たかはし まゆみ)
株式会社福島野球団 福島レッドホープス 取締役副社長。青森県青森市出身。電力会社に勤務した後、上京し美容サロンを経営。2017年から福島レッドホープスの運営に携わり、2018年に副社長に就任。
1億円近い負債を肩代わり。“福島の力”になれるなら
__そもそも球団の副社長ってどんな仕事をしているんですか?
高橋:試合の開催や、チケットの販売、野球教室の運営や、協賛企業の獲得などをしています。日々の業務としては関東での営業活動がメインです。今日も東京で営業して今福島に戻ってきたところです。
__営業ってどんなことをしているんですか?
高橋:スポンサー企業様との契約は1年や3年で切れるので、継続して協力いただけるように、訪問してお話をしています。球団の成績を報告するのはもちろんですが、応援していただけるように、選手の話だったり今の状況や先の予測などいろいろなお話をします。
レッドホープスは、震災後に外遊びができなくなった東北の子どもたちのために、スポーツに携わるきっかけを作ろうと設立したチームです。そういった背景や「子どもたちに夢や希望を与えたい」という思いをお伝えすることで、力になっていただけることもありますね。球団を運営するのには年間1億円以上かかるので、まだまだ頑張らなくてはなりません。
__それほどの資金を集めるのはかなり大変そうです。高橋さんは、どういった経緯で副社長になられたのでしょう?
高橋:私は青森県出身なのですが、震災をきっかけに東北のために何かしたいという思いを持つようになりました。震災直後は炊き出しのために何度も現地へ足を運びました。寒い時期でしたから、温かい食事を提供することで少しでも励みになればと思っていましたね。
その後、もっと何か自分にできることはないかと考えていた頃、元々知り合いだったレッドホープス監督の岩村と話をしていて、復興のためにできた球団がとても困難な状況にあると知りました。
__どんな状況だったのですか?
高橋:5年ほど前になりますが、球団は経営不振の状態で、シーズン途中で前の経営者と連絡がつかなくなり…。監督も選手も残されたまま、負債は1億円近い額でした。
選手たちが路頭に迷わないようにすることと、チーム活動を継続するという思いで、借金を返すところから始まりました。未払いとなっていた地元のお弁当屋さんからバス会社まで、一件一件に事情を説明し理解してくださった方々に返済させていただきました。
球団は地元からの信頼を失っていましたから責められることも多く、心が折れそうになることは何度もありました。でも選手の生活もかかっています。必死に営業をして、まずはマイナスをゼロにして、5年間かけてようやくここまでやってきました。
__そんな状況のチームを引き継いだなんてすごいです。
高橋:就任した日からこれまで、心穏やかに過ごした日はほとんどないですね(笑)。でも、地元からプロ野球選手が生まれることで、福島の子どもたちに夢を持ってもらうことができる。その使命感を持って、監督も選手も私も必死になってやっています。
集めなくてはならない金額は大きいですが、私が関東で営業をすることで球団をピンチから救うことができるかもしれないと思いましたし、それによって選手や福島の人たちが、希望を持つことができるなら、と覚悟を決めて副社長という役目を引き継ぎました。
選手には、悔いなく野球人生をまっとうしてほしい
__高橋さん、なんか見た目のイメージと違うというか、かっこいいです…!
高橋:ちょっと“昭和の男”みたいな性格で(笑)。義理人情とか、生きざまを見せるとか、そういうところを大事にしています。
実は私、美容関係の会社も経営しており、個人事業主なので、野球選手と似ているなと思う部分があって。ケガや病気で動けなくなると収入はなくなってしまうし、日々責任を持って闘わなくてはなりません。
独立リーグでプレーをする選手の場合、半年間でその後の野球人生が決まってしまいます。だから、絶対に力を出し尽くして欲しいんです。精一杯やれば、どんな結果でも納得して「悔いはない」と思えます。そういう環境を作ることも、私の仕事のひとつです。
__そこまで選手といっしょになって歩んでいるとは、想像もしていませんでした。選手に怒ったり、厳しく接することもあるんですか?
高橋:ありますね(笑)。やっぱりファンの方に挨拶がしっかりできていないときは注意します。気持ちよく応援していただけるチームであることは、一番大事です。
選手たちは若い世代ですから、礼儀などは小さなことだと思うかもしれないけれど、その小さな積み重ねを、うちのような地元密着の球団は特に大切にしていかなくてはならないんです。そしてここでの経験はこの先の人生でもいつか必ず役に立つことだと思っています。
__お仕事のやりがいを感じるときってどんなときでしょう?
高橋:忘れられない出来事があります。独立リーグでは1年で選手が入れ替わっていくことがほとんどなのですが、レッドホープスに4年前から在籍している山本竜豪という選手がいます。
山本は昨年、黄色靭帯骨化症という国が指定する難病を発症しました。通常の生活もできないような状態になり治療に専念することになりましたが、「必ず戻ってきます!」と本人は言っていました。
コロナ禍でしたので、お見舞いに行くことも許されず、手術もリハビリもひとりで乗り越えた山本は、言葉通り本当に球場に戻ってきて…(涙を拭う高橋副社長)。
見事復活した山本は登板し、最高のピッチングを見せてくれました。あのとき、球場はみんな泣いていました。
__ちょっと、もらい泣きしそうです…(涙)。
高橋:元々、とても素直で努力家な選手でしたが、精神的にもすごく強くなって帰ってきたなと感じて。そんなふうに選手の成長を感じられるときや、前向きに頑張っている姿を見ると本当にうれしくて、一番やりがいを感じる瞬間かもしれません。
覚悟を持って優勝を目指す今シーズン
__チームの運営をする上で、今度どんな人といっしょに働いていきたいですか?
高橋:業務としてはかなりいろいろなことを同時にやる必要があります。たとえば、遠征のスケジュールを管理したりといったマネジメント業務から、スポンサー企業への営業など多岐に渡ります。そういったことを、やらされていると捉えるのではなく、この経験は未来で必ず役立つと思って、勉強する気持ちを持てると良いのではないでしょうか。
それと、目的や目標がしっかりと定められていることも大事だと思います。たとえば1年後にこうなっていたいという目標を設定し、逆算して1ヶ月ごとにどんなことをすればいいのかと、考えられると良いですね。
__高橋副社長の、これからの目標は何でしょうか。
高橋:やっぱり、優勝したいですね。今年優勝しなければ監督の岩村は辞めると発表しました。プレッシャーはありますが、みんな覚悟を決めています。優勝に向かって心をひとつにして全力を出し切ります。そしてそれが、福島の子どもたちの夢や希望につながることが目標ですね。
今年は特に、監督、コーチ、選手ひとりひとりが人生をかけて戦う姿、その生きざまを見せることになると思っています。ファンの皆さまにはぜひ球場にお越しいただいて、これまでの道のりやひとりひとりの思いを感じていただき、一試合一試合を楽しんでもらえたらうれしいです。
取材を終えて
“福島を元気に”、その思いから福島レッドホープスに携わり、数々の困難を乗り越えてきた高橋さん。真剣に選手ひとりひとりの人生と向き合っていることや、男気溢れる一面に触れ、取材を終える頃には「レッドホープス、応援しないわけにはいかない!」と拳を握っている自分がいました。がんばれ、福島レッドホープス!がんばれ、高橋副社長!