森を再生するバイオマス発電で町おこし!──栃木県那須郡・那珂川町

レッド

written by 川西里奈

栃木県那須郡那珂川町。この町には鮎釣りで有名な那珂川や、里山の豊かな自然があります。

役場のある町中心部から、のどかな農村風景の中を車で進むことおよそ15分、『馬頭東中学校』を発見。

すでに閉校となっているようですが、校庭を覗いてみると、そこには山のように積まれた木材・・・?中からはちょっとコワモテな男性が!どうやらここは普通の中学校ではないようです。

岡康(おかやすし)

株式会社トーセン・千葉県エリアマネージャー。県北木材協同組合 那珂川工場・工場長。

廃校を使用した工場で、再生可能エネルギーを作る

「ここは、馬頭東中学校の跡地を利用して作られた製材工場なんです」と話すのは岡康さん。コワモテな校長先生、、ではなく株式会社トーセンの那珂川工場の工場長さんでした!


▲2008年に閉校となった馬頭東中学校は製材工場として生まれ変わった。

 


▲広々とした敷地の校庭には、丸太が積み上がっている。

 

「伐採した丸太を木材へと加工するのが一般的な製材工場です。でもここ、トーセン・那珂川工場は、バイオマス発電の施設でもあるんです」

__『バイオマス発電』ですか?

 

「そうです。木質バイオマス発電といって、木を燃料にしてエネルギーを作っています。山から切り出される木材の3割程度は、木材に向かないものです。そういった、本来捨てられてしまう木や、製材の過程で出た端の部分などを木質チップという燃料にして発電しています」

 


▲「本来は捨てられる丸太の皮も燃料になります」(岡さん)。

 

__捨ててしまう木がエネルギー資源になるなんて!まさに再生可能エネルギー。すごくエコですよね。

 

「でも、バイオマス発電は日本ではまだまだ、普及していません。東日本大震災のとき、安定した電力の供給が必要とされる中で、トーセンは木質バイオマス発電に注目しました。オーストリアにバイオマス発電所の見学へ行ったときは、その技術の素晴らしさにとても驚きました」

 

「日本は資源をムダにしている!」森を循環させてCO2を削減

そもそも、日本の木材の自給率は30%。岡さんが見学に行った木材先進国オーストリアの自給率はなんと97%。

この背景には、日本が海外の安価な木材の輸入を増やしていったことなどがあるそうですが、それによって木々が伐採せずに放置されていることは、地球環境にとっても大きな問題なのだそう。

 

「森林の放置は、豊かなエネルギー資源を無駄にしているだけでなく、木々が循環するのを妨げて、CO2の増加にも繋がります」

 

__木を切ってしまうのって、環境に悪いのかなと思っていました。環境のためにはむしろ、森を循環させることが必要なんですね。

▲校舎は事務所等として活用。涼しい風の通る廊下には懐かしい学校の匂いが広がる。

 

「日本の人工林※の7割を占めるスギやヒノキは、樹齢30年までが最も二酸化炭素をよく吸収し、やがて吸収能力が低下していきます。枝打ち・間伐などといった手入れを定期的に行って更新・育成をさせれば、土砂崩れなどの災害を防げるだけでなく、二酸化炭素を減らし、地球温暖化対策にもなります」

 

__なるほど。そのために、国内での木材の生産・消費を高める必要があるんですね?

 

「そうです。エネルギー源としての木材の利用方法が広まれば、森林が循環していくサイクルを作りやすくなります」

 

▲校庭のあった場所には燃料となる木質チップなどが置かれる。

 

※人工林…人間が苗木を植えて育てた森林のこと。日本の森林の40%を占めている。

マンゴーにうなぎ!?新たなエネルギーが町を活性化

那珂川工場で、1日に燃やされる木質チップの量は、130トン。発電出力は2500キロワットで、これはなんと那珂川町の8割程(約5000戸分)をまかなえる発電量だそうです。

 

そんなトーセンが掲げている『エネルフォーレ50』は、このバイオマス発電所を中心とした半径50km圏内で、地域の森林資源を余すことなく活用し、人も町も山も元気にして行こう!という取り組み。

 

▲1日に130トンもの量が燃やされる木質チップ。

 

「木質バイオマス燃料の7割が地元で消費されることで、地域に雇用を生み出し、経済が回る循環型社会を目指しています。地域が経済的に自立することは、地域が活性化する第一歩。この産業に関わる人がどんどん増えていくと良いなと思いますね」

 

__エネルギー産業が生み出す新たな雇用とは具体的にはどんなものでしょう?

 

「工場が拡大すれば、そこでの雇用が増えるのはもちろん、熱エネルギーの利用方法次第では雇用のかたちは無限大です。木質チップを燃やした際の蒸気の熱を使って、マンゴーのハウス栽培に使いたい、野菜を育てたいといった声もあります。今では農作物だけでなくうなぎの養殖なども行って、事業化も順調に進んでいます」

 


▲製造されたバイオマスチップはボイラーへ投入され、燃料となる。

 

__たしかに、熱エネルギーの利用方法は無限にありそうですね!

 

「一般の山林所有者から間伐材などの未利用木材を買い取る『木の駅プロジェクト』を実施した際には、木材と引き換えに地元商店街などで使える『地域振興券』を作りました。こういった活動を広げていき、今まで放置されていた山林の資源が無駄なく利用され、地域も活性化するという循環が生まれると良いと思いますね」

 

▲かつての教室には巨大な水槽が設置され、中にはうなぎの稚魚が。

 

半径50km圏内からの循環型社会

トーセンの『木質バイオマス発電』によって、勢いを加速させる那珂川町。町の活性化を担う岡さんに、今後の展望を伺いました。

 

「トーセンは、栃木県に本社を置く国内でも最大級の国産材専門の製材会社です。どうしても発生してしまう製材の端材に活路を作り、木材に多様な価値をつけたいというのがトーセンの想いです。

そのなかで生まれたのが、製材で余った端材からエネルギーを作り出せないか、というアイデアでした。熱エネルギーで農作物や養殖魚を育てるのは、田畑が広がる那珂川町ならではの再生可能エネルギーの利用の仕方だと思います。

 

今では地元の人たちが『那珂川町地域資源活用協同組合』を立ち上げ、地元産の野菜・養殖魚を観光資源に活用する取り組みも始まっています。

まずは半径50km圏内という規模から、熱エネルギーを普及させ、那珂川町が日本、そして世界に誇れる新たな産業を生み出す土台となれたらうれしく思います」

 


▲併設されたビニルハウスではコーヒーが順調に育っている。

 

まとめ

エネルギー自給率わずか、9.6%(「総合エネルギー統計」2017年度)の日本。そんな中、株式会社トーセンは、那珂川町を着々と自立へ導いていると感じました。

ちなみに、熱エネルギーを使ってできた那珂川町産マンゴーはびっくりするほど糖度が高くて濃厚!天然の鮎に加えて、絶品のマンゴーやうなぎなど、味わい尽くせないほどの魅力を増す那珂川町。次に訪れるのがとっても待ち遠しくなりました。

▼さらに詳しい情報はこちらから!

株式会社トーセン

栃木県・那珂川町

この記事をシェアしよう!

  • hatena