世代を超える絆を「和」の文化で紡ぐ──創業165年の老舗呉服店まるためで描く、着物スタイリストとしての夢

ブルー

written by ダシマス編集部

お宮参りから七五三、振袖まで。人生の節目に寄り添い続けて165年。長野県の老舗呉服店である、きものの殿堂まるため(以下:まるため)は、マニュアル化できない販売員のまごころと豊富な品揃えを強みに、地域に根付いてきました。

約2年前まで(取材:2025年1月)は一お客様だった柳澤彩さんは、着物への深い愛着から転職を決意。今は着物スタイリストとして、新たな価値の創造に挑戦しています。そんな柳澤さんに、165年の歴史が育んだ和の世界で見つけた喜びと、まるためで働くからこそ描ける夢を聞きました。

スタイリスト 栁澤 彩(やなぎさわ あや)さん

スタイリスト 栁澤 彩(やなぎさわ あや)さん

長野県長野市出身。県内の短期大学卒業後に旅行会社へ就職。国内外の添乗員を経て、仕入れ企画を担当。コロナ化で思うよう出社が出来ず、空いた時間を好きだった着物へ。もっと知りたいと興味が深まり、旅行会社を退職。日頃より寄せていただいた呉服店へ転職をしました。

「私も曽祖母の代からお付き合いしています」。165年続く老舗呉服店の特徴

──まずは会社紹介からお願いします。

まるためは呉服専門店です。お宮参りから始まって七五三、振袖、そして訪問着、留袖、おしゃれものの着物まで幅広く取り扱っています。全国展開はせず、地元に寄り添った地域の皆様とともに歩む呉服専門店として育ち、2025年2月で165周年目を迎えました。

一つ当社の特徴として、あえて「完全にマニュアル化しない」というところがあり、ここは他の呉服屋さんとの大きな違いだと感じています。係の者とお客様とが世代をまたいでお付き合いをしているため、決まりきった形式ではなく心同士のお付き合いをしているところに、まるためらしさがあります。

私自身も、曽祖母の時からの付き合いなので4代またいでお付き合いをしているんですよ。母や祖母は、「我が家の桐ダンスを丸ごと預けているような感覚」だったと話していました。

こうした付き合い方ができるのは呉服と洋服の違いといえるかもしれません。着物の素材である絹の寿命は100年あるといわれています。「ママ振り」という言葉があるように、代をまたいで身につけられるもの。だからこそ、お付き合いも自然と世代を超えて続いていくのだと思います。

──まるためならではの特徴について、他にもあればお聞かせください

豊富な商品点数ですね。呉服店として数多くの在庫を抱えることは、経営上の大きな決断が必要なのですが、まるための場合、長年にわたるお客様との信頼関係があるからこそ、これだけ多彩な品揃えを実現できています。

たとえば私たちは、お客様のご家族の状況から「そろそろこういった行事が必要になるはず」といった具体的な予測を立てることができます。長年のお付き合いを通じて把握してきたお好みや、そのときどきの生活スタイルに合わせて、計画的に商品を仕入れることができるんです。

このように確かな見通しを持って仕入れができるため、それが新しいお客様との出会いにもつながっています。こうした良い循環が、まるためを支え続けてきた理由なのだと実感しています。

 

着物への深い愛着が導いた、スタイリストとしての新たな道

──柳澤さんがまるために入社したきっかけ、理由を教えてください。

着付けを習うなど、昔から着物自体への深い興味を持っていたのですが、もっと知識を深めたいという思いから異業種からの転職を決めました。

──日々どのようなお仕事をされているのか教えてください。

現在は着物スタイリストとして、お客様一人ひとりに最適な着物選びのご提案をしています。「このような用事があるのだけれど」というご相談に対して、場面に合った着物をご提案し、トータルコーディネートのお手伝いをさせていただいています。また、「着物を通して楽しみたい」というお客様のために、着物でのお出かけイベントを企画することも、重要な業務の一つです。

──着物スタイリストとして、特に大切にされていることは何でしょうか。

呉服には、行き先や会う方によって着物の種類と格、装いを変えていくという独特の作法があります。式典やお祝い事には色留袖や訪問着を、よりカジュアルな集まりには小紋や紬など、TPOに応じた細やかなコーディネートを心がけています。

こうした仕事の中で最もやりがいを感じるのは、お客様の人生の節目に寄り添えることです。成人式や七五三、結納など、大切な場面での着物選びから着付けまで、トータルでサポートさせていただいています。

印象深い思い出として、浴衣のご購入からお付き合いが始まり、後に結婚式の前撮りまでご一緒させていただいたお客様がいらっしゃいます。両家顔合わせに着用される訪問着のお仕立てを急ぎ、その後の前撮り写真が結婚式場に飾られたと知った時は、とても嬉しかったですね。

──お客様と接する中で、難しさを感じることはありますか。

呉服業界特有の言葉遣いには苦労しました。例えば「上品」という言葉一つとっても、着物の持つ気品や風情を伝えるには十分とは言えません。生地の織りの細やかさ、染めの深み、柄行きの調和など、着物の魅力を言葉で紡ぐことの難しさを日々感じています。

 

20代から70代まで、年齢を超えて和の心を紡ぐ職場環境

──職場の雰囲気はどのような感じでしょうか。

20代前半の新入社員から70代のベテランまで、幅広い年齢層が活躍しています。60代での定年が一般的な中、まるためでは70代の方々も第一線で活躍されています。それはきっと呉服の奥深さゆえに、長年の経験が重要な価値を持つからでしょう。

私自身、直属の上司は70代のベテランで、呉服に関する専門知識や業界特有の言葉遣いを日々学んでいます。例えば長さの単位も一般的なセンチメートルやメートルではなく「鯨尺」を使用するなど、独特の文化が息づいています。

一方で、私が上司にスマートフォンの使い方をレクチャーすることもあり、世代を超えて支え合える関係性も自然と築かれています。このような風通しの良さは、部署を超えた連携にも表れていると思いますね。

──部署間のコミュニケーションは、具体的にどのように取られているのでしょうか。

まるための組織の特徴として、「全員営業」という考え方があります。営業、商品部、管理部、スタジオと部署は分かれていますが、表に出る社員も裏方の社員も、全員がまるための顔として一丸となって仕事に取り組む。私自身も、着物スタイリストであり営業でもあると自覚をもって、日々取り組んでいます。

──会社として、働き方の面で力を入れている取り組みなどはありますか。

「社員が辞めない組織作り」を意識した取り組みを進めていて、その成果は2020年からの健康経営優良法人認定取得にも表れています。70代のベテランから20代の若手まで、それぞれの体力や生活スタイルに合わせて、働き方を選択できる柔軟な制度を整えているんです。育児や介護との両立支援はもちろん、長年働いてきたベテラン社員の体力面にも配慮した勤務形態が用意されています。

また、5年ほど前から残業時間の削減に取り組み、月間で20時間近く削減しました。最近ではペーパーレス化やシステムの最適化など、DXへの取り組みも始めていて、伝統ある呉服店でありながら、働き方の改善にも積極的にチャレンジしていると思います。

 

大切なのは「和の文化への興味」。学ぶ姿勢があれば誰にでも

──ここまで、お客様との思い出や職場の様子をお聞きしてきましたが、そうした経験を重ねられてきた柳澤さんご自身が、仕事に向き合う上で大切にされている価値観を教えていただけますか。

私は、自分の興味や関心に素直に向き合い、それを深めていくことを大切にしています。ただし、何かを始めたら必ずやり遂げること。性急な成果を求めるのではなく、地道にコツコツと積み重ねていく姿勢を心がけています。これは着物との出会いから、スタイリストとしての今の仕事に至るまでの経験が教えてくれたことです。

そうした姿勢で仕事に向き合う中で、今後のための新しい目標も見えてきました。まるためには他の呉服店の何倍もの商品があり、それぞれの担当者の「目利き」によって選ばれた素晴らしい品揃えがあります。私も着物を愛する一人のユーザーとして、いつか自分らしい視点で商品を選び、コーナーを作れるようになりたいんです。実現にはまだまだ10年以上の研鑽が必要ですが、その日を夢見て日々精進していきたいと思っています。

──最後に、読者の方へ一言メッセージをお願いします。

私は着物を着ることから始まり、その魅力にのめり込んでこの世界に飛び込みました。でも、そういったケースは実は珍しく、多くの先輩方は入社後に着付けを覚え、着物の種類や格について学びながら成長されてきたと聞いています。

だから、着物の知識は働きながら身につけていけばいい。大切なのは「和の文化への興味」があることです。

着物に興味はあるけれど、知識がない――。そんな方も、ぜひ一歩を踏み出してみてください。もちろん、知識を身につけられるかどうかは、その人の熱意や努力次第。でも、165年の歴史が育んだこの世界には、学ぶ意欲のある方を温かく迎え入れる環境が整っています。
 

(取材・執筆:大久保崇

 

株式会社まるためについて

ホームページ:https://marutame.com/

採用情報:https://marutame.com/jobs

 

この記事をシェアしよう!

  • hatena
株式会社まるため