【ダシマス老舗・マルコウ】人とものとのつながりを守り72年。流行の最先端で活躍し続けるマルコウ質店の歩み

レッド

written by ダシマス編集部

創業30年以上の老舗企業に焦点を当てる本企画。持続的な成長と成功をおさめ、時代をまたぎ社会に貢献してきた歴史を紐解き、その長い期間によって培われた文化や知見から、多くの人に気づきとインスピレーションを与えることを目指しています。

本記事では、創業72年となる株式会社マルコウの代表、一條 敏武 (いちじょう としたけ)さんにご登場いただきます。

戦後間もなくして創業したマルコウ質店は、商品売買の最前線で時代の移り変わりを見守ってきました。その道のりには、確かな目利きと真剣勝負の経験、そしてトレンド動向把握が必要不可欠だったといいます。

思わず引き込まれる一條さんご自身のこれまでの来歴や、印象的だったお客様とのエピソードまでたっぷりとお話いただきました。

株式会社マルコウ代表 一條 敏武 (いちじょう としたけ)さん

株式会社マルコウ代表 一條 敏武 (いちじょう としたけ)さん

会津若松市の高校を卒業後、東京の大学に進学。そのままの流れで東京に就職するも、一年で会社を辞め、五反田界隈で2~3年ブラブラする。それが飽きてしまったという理由で地元に戻り、家業を継ぐことに。その後、45年色々あったものの、会社を潰さずに息子にバトンタッチする。今は趣味の釣りとゴルフを楽しみながら、ほんの少し仕事も手伝う身。

執筆:神田佳恵

執筆:神田佳恵

フリーランスライター。"何気ない人生にスポットライトを当てる"をテーマに、インタビュー・広報note・SNS・コピーなどの分野にて執筆活動中。コミュニティ運営や編集、マーケターとしても活動の幅を広げる。一児の母。夫と息子、note、推し、旅が好き。

戦後の混乱から現代へ。新規歓迎の姿勢が経営を軌道に乗せる

 

――マルコウ質店創業の経緯について、教えてください。

創業は1951年、戦争が終わり出兵から帰還した私の父が創業者です。終戦の翌年、当時はまだ珍しかった恋愛結婚をしたそうですが、勤めていた企業はあまり給与が高くなく、自分で商売を始めたいと考えたようです。そんな話を会津若松にある食堂の親父さんにしたら、自分が出資してやるから質屋を始めるのはどうか、と提案されたと。

質屋と聞いて借金の取り立てを連想してしまい、自分にはできないと考えていたそうです。でも事前に借金の担保として物を預かる質屋は、質物を売って貸した分を回収すればいいのだから強引にお金を回収する必要がない。それならやろうじゃないかと商売方法を学び、仕事を始めるに至ったようです。

 

――質屋といえば買取・販売業をイメージしますが、今一度ビジネスモデルについて教えていただけますか。

買取・販売も質屋の商売方法の一つですが、メインになるのは「質預かり」という、ものを担保にお金を貸すことですね。お金を貸してから3ヶ月間は質物の所有権はお客さんにありますが、3ヶ月経つと「質流れ」といって、流出物扱いになり所有権が私たち質屋側に移るんです。

質流れとなった場合質物を売って貸した金を回収する、そういう商売方法もあります。

 

――取り扱う商品はどのようなものが多いのでしょうか。

昔と今では、商品群もだいぶ変わりました。私が若いころはテレビや白物など、家電製品が主流でしたが、現在は取り扱いの8割が宝石や高級時計、有名ブランドバッグです。残りの2割は家電や日本刀、絵画などの美術品などですね。

 

――戦後の創業ということで、経営を軌道に乗せるのは大変だったのではないでしょうか。

戦後当時はみんな生きるために必死でしたから、鍋や釜、中には穴の開いた革靴を持ってきた人もいたそうです。ベテランの質屋ならきっとお断りするでしょうが、父は新規歓迎の姿勢でなんでも預かっていたようで。ところが意外にも、少し傷んでいても修理すれば使えるようなものは飛ぶように売れたそうなんですよ。

その後やってくる高度経済成長期を経て、今となっては大量生産・大量消費が当たり前の時代になりました。でも戦後はみんなものを大事にしていたから、どんなものでも売りにくる人は貴重だったんです。

 

破天荒な東京時代。市場で目を鍛え、一発勝負の世界に魅了される

 

――2代目社長として就任された当時、どのようなお気持ちでしたか。

当初は、私が会社を継ぐとは思っていなかったし、父から会社を継ぐよう言われたこともありませんでした。好きなことをやれと言ってくれていた父の度量の広さは大したものだなと思います。ですが東京で10年くらいひどい暮らしをしていたのがバレて、父が「それなら家業をやったらいいんじゃないか」と言って田舎に帰ったのがきっかけでしたね。

高校卒業後に東京の大学に進学し、その後初任給7万円で1年くらい企業に勤めましたが、上司と喧嘩して職場を飛び出してしまって。それから3年くらい、五反田の雀荘で麻雀や博打しながら過ごしていたんですよ。

私自身質屋のシステムはよく理解していましたから、1ヶ月の仕送りがなくなったら家にあるものを持って利用客として質屋によく行きました。たまに母が東京のアパートを掃除しに田舎から出てくると、家の中がすっからかんになっていて、結局母に質に入れたものを取り戻してもらって……ひどい有様ですよ。今でもギャンブルは好きですけどね(笑)。

 

――まさかの就任の経緯に驚きました(笑)。実際に家業を継いでみて、楽しかったことややりがいを感じたことはありますか。

仕事は楽しいことばかりですよ。田舎に帰ってきたころはまだ30歳前後で、今思えば大変なこともあったでしょうけど。

若い頃はよく、質物を売りに遠方まで出かけました。東京の練馬の方に大きな市場があって、朝の10時から夜中の2時まで売り買いするんです。翌日に仙台で別の市があるときには、その足で仲のいい連中と車を飛ばしましたね。

東京で売れる商品と、田舎で売れる商品の傾向を掴んで、東京で競り落としたものを翌日仙台に行って高値で売ったりもしていました。

 

――市場の競りと聞くと、なんだか活気に溢れていて楽しそうに感じます。

私たちのする競りは、一般的なオークションと違って上乗せして戦わない、暗黙のルールがあるんです。高すぎる金額を提示してしまうと損をするし、でも安すぎては再提示もできないですから、狙った商品を手に入れられない。プロ同士の一発勝負というわけですね。

50万円くらいの価値がある商品を、1000円ほどの僅差で競り落としたときには思わずガッツポーズですよ!その反対に、1000円で競り負けしてしまうこともあるので難しいですし、それが面白さでもあります。

 

――まさに目利きが物をいう世界ですね。野暮な質問ですが、目利きを鍛えるにはどんなコツがあるのでしょうか。

長年売り買いを経験することと、あとは記憶力ですね。世間ではどんな商品が人気を集めているのか、トレンドには敏感にならないといけません。海外ブランド品の場合は、為替相場も価格に影響しますから、必ず確認しておく。

日々膨大な量の情報をインプットしていないといけないですし、咄嗟の判断力も必要です。

 

ときに受ける珍しい相談は、利用客からの信頼の表れ

 

――マルコウ質店の利用客には、どのようなお客様がいるのでしょうか。

客層はさまざまですね、中には年金暮らしの方もいます。年金が支給される偶数月の15日の翌日に、お金を用意して預けたものを取り戻しに来る人もよくいらっしゃいますよ。

利用目的も多種多様です。パチンコを打つお金を借りに来る方もいれば、母国に仕送りするお金を作るために金製品を持ってくる外国の方も。

 

――これまで対応された、印象的なお客様のエピソードがあれば教えてください。

直近ですと、横浜の質屋に300万円でロレックスの時計を預けているというお客さんがうちに訪ねてきたことがありました。預けて半年くらい経つが、横浜まで利息を送るのが面倒になったから、マルコウに預け先を移したいと。だから元金の300万を用意して、一緒に横浜まで来てくれないかって言うんです。

こんなことがあるのかと驚きましたが、結局横浜までの交通費を負担してもらって、一緒に横浜まで行きましたよ。

 

――そんな依頼が来ることもあるのですね……!他にも何か印象に残るエピソードはありますか。

ある日突然、東京から電話がかかってきたことがありました。電話の主は地元のお客さんで、「社長、俺今東京にいるんだけど、ポケットに50円しかねえんだ」って言うんですよ。そして明日帰るお金を、送金してくれないかと。

調べてみると、そのお客さんはうちの蔵に5万円で日本刀を預けていたようで、そこに2万円で貸し増しする形で送金することにしたんです。こんなこと、他の質屋では請け負わない相談だと思いますよ。

 

――マルコウ質店だからこそ、他では無理な相談でもしてしまう、というお客様も多そうですね。

そうかもしれません。感覚としては、質屋をやりながら人助けをしているのに近い。お客さんとのつながりは濃いと思いますね。

 

人もものも大切にするトレンドの中心。EC販売でさらなる売り上げ増加へ

 

――改めて、質屋の魅力を教えてください。

質屋はトレンドの中心にある仕事だといってもいいと考えています。スマホやパソコンなど、最新機種はすぐに入ってきますし、質屋がブランドバッグを扱うようになってから、中古のブランド品の価値が認められるようになったともいわれているんです。

私の息子もマルコウで働いていますが、息子や社員を連れて年に数回は表参道のハイブランド通りを訪れます。ディスプレイや街並みからトレンドを学ばせるようにしているんです。

あとは、質屋はお客さんも商品も丁寧に扱います。取り扱う商品も高価なものが多いですし、金融の側面もあるので信用を何より大事にしているんですよ。事業を開始する際にも公安委員会の許可が必要ですし、法律上の定めに則っていますから、安心して利用できるサービスだと思います。

 

――今後取り組むべき課題などもあれば教えていただけますか。

これは業界全体の課題ですが、質屋自体の認知度をもっと上げていくべきだと思います。質屋というのは全世界にある業態で、日本では鎌倉時代から営まれているといわれていますが、特に若い世代にはあまり理解されていない印象があります。

各都道府県の同業者で構成される全国質屋連合会も、認知度アップに向けてあれこれ取り組んでいるようです。最近では、「しちまるくん」という質屋の看板犬をモチーフにしたキャラクターも作ってPRしているそうですよ。

加えて、今はインターネットの普及で情報が溢れていますから、一般の方でも商品の相場感を調べられるようになってきました。自分でフリマサイトに出品して商品を販売する方も増えてきましたが、手数料や諸々の手続きもなく、その場で現金が手に入る質屋の価値は現代も間違いなくあると思いますね。

 

――最後に、マルコウ質店の今後の経営方針についても教えてください。

時代の移り変わりとともに取り扱う商品ももちろん変わりますが、販売方法のトレンドも変化していきます。現代はEC販売が当たり前の時代ですから、積極的に人を採用しながら、さらに力を入れて売り上げ増加につなげていきたいですね。

私たちも10年以上前からインターネット販売に挑戦していて、新型コロナウィルスの落ち着きとともにリベンジ消費の動きが活発になってきました。団塊の世代も私物整理をするころですから、いい商品も集まりやすくなってきています。世代関係なく、オンラインでもオフラインでも、お客様と商品を大切にしながら営業していきたいですね。

 

株式会社マルコウについて

・ホームページ:https://www.marukou78.com/

 

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