人口4500人の小海町に突如現れた若者集団『ノーマンズ』が体現する移住と起業の新常識
written by 斉藤彩
長野県小海町、人口4500人を切ったその町には、地域おこし協力隊として東京からやってきた4人の男の姿が。
「自分たちのワイナリーを作りたい」
そんな思いを胸に小海町でぶどう農家として活動する、4人組ユーチューバー『ノーマンズ』に、地域おこし協力隊として起業するメリットや田舎暮らしの実態を直撃しました!
インタビュイー:コースケ
石川県金沢市出身。慶応大学卒業後、外資系化粧品メーカーで経営管理を担当。
ノーマンズのリーダー的ポジションで、YouTubeの編集・渉外も担当。
K-popが好き。バケットハットを被ってる人。
*コースケさんのことが分かるおすすめ動画:白駒池&高見石に紅葉を見に行きました。
インタビュイー:ヒデナオ
東京生まれ東京育ち。慶応大学卒業後は就職せずに1年間フリーターをしていた。
フリーター時代はゴールデン街でバーテン&ウーバーイーツのドライバーをしながら生活。
ノーマンズではぶどうの栽培と研修時のドライバーを担当。
お酒と本・映画が好き。虫に刺されて体を腫らしがち。
*ヒデナオさんのことが分かるおすすめ動画:ぶどうと畑と、ノーマンズ
インタビュイー:タツヤ
神奈川県横浜市出身。慶応大学卒業後はWEB広告の代理店で2年間営業として勤務。
ノーマンズではぶどうの栽培と来客時のお料理を担当。
ハンバーグとスポーツが好き。ワイン以外のお酒は弱いので苦手。
*タツヤさんのことが分かるおすすめ動画:竹・PLAY・ノーマンズ
インタビュイー:ケイタ
静岡県浜松市出身、神奈川県川崎市育ち。
慶応大学に6年間通った結果、唯一の新卒として小海町に移住。
ノーマンズでは醸造や庶務、洗い物を担当。
お酒と音楽(特にR&B)が好き。サングラスの下に優しさを秘めている。
*ケイタさんのことが分かるおすすめ動画:軽井沢旅行で行きたいワイナリー紹介
よく考えたけど、やっぱり楽しそう。そんな感じで『農家』始めました
ーーー4人で小海町に来ようと思ったきっかけは?
コースケ:最初に言い出したのは僕です。事の発端は2020年の12月、東京で知り合った小海町出身の知り合いから「小海町でワイン用ぶどうの栽培を始めるらしいよ」という話を聞いたこと。
気になって小海町のホームページを見てみると、ほんの3行程度「2021年4月からのワイン用ぶどうの試験栽培をするので、農地を貸してくれる農家さんいませんか」という内容の募集が出てきました。
もちろん地元の農家さん向けの募集だったので、僕らが求められているわけでもなく。笑
話だけでも聞きに行こうぜってヒデナオを誘って、東京から小海町に乗り込みました。
ーーー求められていなかった、とのことですが、実際に小海町の方がみなさんに任せてくれた理由は?
ヒデナオ:若い人がいないんで、若いってだけで需要があったというか。
ありがたいことに役場の方が僕らに目を付けてくれて、「じゃあ地域おこし協力隊として来てみたら?」って提案してくれたんです。地域おこし協力隊としてなら3年間は国からの資金で事業にかかる費用や給料をカバーできると。
ーーーなるほど。とはいえ、正直結構来るの悩んだ!という方はいなかったんですか?
ヒデナオ:めちゃくちゃ悩みましたね。躊躇した、というよりは、熟考した、という感じです。話を聞いて、それなりに悩んで、それなりに考えて。
でも日本のワインって今知名度が上がってきてるんですよ。それを俺らで作れるかもしれないっていう可能性に対する「ワクワク」とか「楽しそう」っていう気持ちの方が大きくて、来ちゃいましたね。
タツヤ:僕はお酒自体ほとんど飲まないので、他の3人に比べるとワインを作りたい気持ちは少ないんですよね。どちらかと言うと、ワインになる前の農業だったりぶどうの栽培の方に興味があって。
元々アクティブなことが好きだから、東京にいた頃から天気のいい日はPCカタカタするんじゃなくて外に出たいなって思ってたし、地方創生や農業って、今後10年20年経っていく中で切っても切れない日本の問題じゃないですか。だから当時の仕事よりも熱意持ってやれるかなって。
あとはヒデナオも言ってたけど、とにかくワクワクした。これが一番大きかったかな。
コースケ:各々悩んだと思います。僕はブランドビジネスとか化粧品に興味があったので、前職も普通に楽しんでたし、その関連で起業したいなとも思ってたんですよね。
でもそれが化粧品じゃなくてワインになったとしても、それも一つのブランドビジネスとして楽しめるだろうなって。それに日本ワインも注目されてて、ここ5年でワイナリーが倍増してる今がチャンスだと思ったので、みんなに声をかけました。
当初は正直小海町に愛情があったわけでも、地域おこし協力隊について詳しいわけでもなかったので、リスクを負ってきたつもりだったけど、最近はあんまりリスクがないなって感じてるところです。
ーーー移住という選択にリスクがないと感じ始めた理由は?
コースケ:地域おこし協力隊という制度を利用して地方で起業する、という手法は国でも推奨されてるんですけど、3年間は給料の保証があるので、起業の準備期間としては本当にちょうどいいんですよね。
ただ地域おこし協力隊って、地域によっては職員の労働力が足りないから普通に公務員やらされてる、みたいな話も聞くんですよ。だけど小海町の協力隊にはミッションがあって、それぞれに適任を置いてやっているので、地域おこし協力隊に悪いイメージがある人にもうちは違うよと伝えたいですね。
小海町のミッションとその事業をやりたい人がマッチすれば、めちゃくちゃいい起業法だと思います。
就農ユーチューバーのリアルな働き方とハッピーな田舎暮らし
ーーーみなさんは実際にどんな1週間を過ごしてるんですか?
コースケ:それぞれ役割が違うので、人によって過ごし方はバラバラですね。
僕はYouTubeの編集だったり外部の方とコミュニケーションを取ることが多いです。
タツヤとヒデナオは栽培周りの担当をしているので、研修に行って勉強したり実際に畑作業をしたり。
ケイタは醸造担当で、実際にワインづくりに必要な設備なんかを先んじて勉強しています。
一応地域おこし協力隊の契約書では月~金で1日7~8時間労働になってるんですが、土日にワイナリーさんにお手伝いに行ったり、地域のイベントに参加したりすることもあるので、固定で休みが決まっているわけではないですね。
全員仕事とプライベートがそんなに分かれてないんじゃないかな。
ーーーお給料って毎月固定なんですか?
ヒデナオ:そうですね、公務員みたいな位置づけなので。だから極論仕事をしてもしなくてももらえてしまうという…。
コースケ:実際あんまり働かずにゆっくりしてるだけって自治体もあるみたいですよ。
ヒデナオ:働かずにお金をもらうなんて苦痛でしかないし、地域の方との関係性も悪くなってしまうので、能動的にやっていく必要はあるなと。
ーーー8ヶ月住んでみて、地元の方との関係性は深まりましたか?
コースケ:僕らが地元の方といい関係性を築けるように、来たばかりの頃に役場の方が親切に地元の方を紹介してくれたりしたんです。だから町の人にも「ぶどうをやってる若い連中がいるぞ」って認知してもらえてますね。
「YouTube見てますよ~」って声かけてくれたりとか。笑
ケイタ:田舎なんで、「野菜あげるよ」って玄関開けてきたりっていうハッピーなサプライズもありますね。笑
最近だったら松茸かな。どうやら小海の人は山を所有してる方が多いらしく、山で松茸が採れるらしいんですよ。うめーうめーって食べてたら、東京だと1本5000円するらしくて。あれはビビりましたね。
コースケ:まだ寒さに慣れてないんですが、向かいのおばちゃんが「寒くなってきたから毛布いるかい?」って持ってきてくれたこともありました。
他にもご近所さんが庭の草刈りを手伝ってくれて、お返しにマカロンあげる、みたいな。笑
タツヤ:近所の人もだけど、役場の人も良くしてくれるんですよね。こないだは「お肉食べる?」って2キロ分買ってくれたりとか。笑
町の人にも役場の人にも親切にしてもらってて、本当ありがたいなと思います。
ーーーノーマンズさんの他にも5名の協力隊がいると伺ったのですが、他の協力隊の方とコミュニケーションを取ることもあるんですか?
ヒデナオ:豆腐をやってる方々は忙しくてまだ飲み会とかはできてないですね。
でも地元のスーパーや温泉に行くとまぁよく会うので、会話はしてますよ。誰が何をやってるかはお互い認知してるので、SNSで反応しあったりとか、そういう関係です。
ワインづくりも、町おこしも、ちゃんと本気で考えてます
ーーー現在小海町では新たな協力隊を募集しているとのことですが、どんな仲間が増えたら嬉しいですか?
ケイタ:コミュニケーションを取るのが得意な人がいいのかなとは思いますね。僕ら全員人と関わるの好きなんで、それもあって近隣の農家さんの受け入れも早かったのかなと。
小海町って移住してくる人が多い地域らしいので、受け入れ体制がしっかりしてるんですよ。だから移住はいいぞって思うけど、移住後に関係性を築いていくためにはこちらから開示していく必要もある、というのは伝えたいですね。
コースケ:都会から来る方だと、田舎のウェットな関係を想定できるといいのかな。東京に比べると距離感が驚くほど近いので、そういうところは想定しておいていただけると。
高齢の方が多いので、おじいちゃんおばあちゃんと話すのが好きな人だと楽しいと思います。
あとは僕たちもワインを通じて小海町を盛り上げられたらなと思っているので、そういう地方創生に対する意欲がある人が来てくれたら嬉しいですね。
新しい仲間が増えることで、小海町がただの田舎から魅力的な田舎に変わるチャンスが出てくると思うので。
ーーーこれから移住してくる方に向けて、警告しておきたいことはありますか?
コースケ:都会とか田舎とか関係なくどんな仕事にもしんどいことってあると思うんですが、一つ言えることは、やらされてる感覚は全くないので、自分のやりたいことに専念できますよ、ということ。逆に指示待ちみたいな人だと退屈に感じてしまうかもしれません。
僕らのこともサポートしてくれる人もいれば、内心「本気でやってるの?」って思っている方もいると思うんですよね。だから、公務員としてお金をもらって事業をやらせてもらってるという自覚だったり、責任感を持つ必要はあるなと。
東京の人だと、体じゃなくて頭を使って稼いだ方がいい、みたいな感覚って結構あると思ってて。僕たちは今農家なんで、どちらかというと体を使って稼ぐ側だと思うんですが、結局好きなことして稼げたらどっちだって良くない?って思ってやってます。
ヒデナオ:あと一つ伝えるなら、ゴミの分別が非常に厳しいです。ちょっと汚れたゴミは戻されますし、狭い町なので誰のゴミが残ってるか分かってしまうんですよ。
ペットボトルの回収は月1しか来ない上に、綺麗じゃないと持って行ってもらえないので、毎月戦いです。
ーーー最後に、今のノーマンズの目標を教えていただけますか?
コースケ:自分たちのワインを作っていこう、というのは全員に共通してる想いですね。副次的に僕らの活動が小海町の活性化に繋がって、ゆくゆくは長野を代表する存在になれたらなと。
ーーー任期が終わった3年後はどうする予定ですか?
コースケ:3年後には地域おこし協力隊っていうタグは外れるけど、町で活動する企業として密にコミュニケーションを取り合って、小海町にワイナリーを作りたいという長いスパンで見ています。そのときにはぶどうも育ってきてるだろうしね。
今も「地域おこし協力隊だから」とかではなくて、小海町で事業を展開する一企業としてやってるつもりです。
小海町、第2のノーマンズをWANTED!
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