新規就農は“ガッツ”が必要!5年目を迎えるいちご農家のホンネ

レッド

written by 川西里奈

地方への移住ニーズが高まる今、国からの給付金もあり「移住したら新規就農して生活をする!」と意気込んでいる方も多いようです。

今回は、栃木県・那珂川町へ嫁ぎ、ご自身で一からいちご農家を始めた小林千歩さんに、農業の大変さややりがいについてお話を伺いました。

小林千歩(こばやし ちほ)

栃木県農業大学校研究科卒業後、栃木県・那珂川町のお米農家へ嫁ぐ。2017年からいちご農家として自身の経営を始める。

やるからには収益を上げる!と覚悟を決めて始めたいちご栽培

__わあ〜大きなハウスですね!ここで作られているのは何ですか?

 

小林千歩さん(以下、小林):とちおとめと、スカイベリーという品種のいちごです。肥料は有機質のものを使用して、おいしいだけでなく安全ないちごの栽培を心がけています。

 

__いつ頃からいちご農家をされているのでしょうか?

 

小林:ハウスを借りた4年前から栽培をしていますが、土地は昨年買いました。今はこのハウスから隣の田んぼのあたりまで私の名義の土地です。

 

 

__小林さんはなぜ那珂川町でいちご農家になったのですか?

 

小林:夫の実家がこの町のお米の専業農家で、農大を卒業してすぐに結婚して引っ越してきました。3人の子どもの子育ても一段落して、何か始めたいというときにたまたま借りられたのがいちごのハウスでした。

いちご農家は収益性も高いのも魅力で、やるからには趣味じゃなくて仕事としてしっかり収益を上げると決めて始めました。

 

__自分で土地を買ってビジネスを始めた、ということですね!かっこいいです。始めてみてどうでしたか?

 

小林:いちごの栽培の勉強をほとんどしないで始めたので、やってみてその大変さにはびっくりしましたね。いちご農家は15ヶ月仕事があるとも言われているくらい、本当に一年中ずっと仕事です。

 

__特に大変な時期などはありますか?

 

小林:特に夏は苗を準備する作業もあるし、水をやってもすぐに乾くので大変です。ハウスのメンテナンスもびっくりするくらい地味な作業がめちゃくちゃあるんですよ。

 

それでも収穫の時期に、幼稚園の子どもたちがいちご狩りに来て楽しんでくれたり、おいしいと喜んでくれたり、それが一番のやりがいかもしれないですね。

新規就農に必要なのは、“ガッツ”

__小林さんは、元々農業に興味があったのですか?

 

小林:私の実家は農家ではなかったのですが、農家の嫁になるのがずっと夢でした。動物や自然が好きだったし、自分で何かを作り出すってすごいことだと思うんです。

 

__そうですね。でも“何かを作りたい”という思いだけではなかなかむずかしいのかなとも思います。

 

小林:20代でひとりでよくできたなって自分でも思いますね。運もよかったし、何も考えていなかったからかなあ(笑)。でも、農家って“きつい汚い稼げない”みたいなイメージがあるじゃないですか。それはとても悔しいなって思っていて、「そうじゃない!」って言いたいです。

貪欲にガッツを持ってやれば農業でも稼げるんです。始めから“ほどほど”でいいと思っていたらほどほどにしかならないですよ。私がそう考えられるようになったのは、那須烏山市にいる農家の先輩のおかげです。その人も女性ひとりで大変と話していましたがうまくいっています。

 

__新規就農したい人に伝えたいことって何かありますか?

 

小林:農業をやりたいっていう人が見学に来て「正直そんな簡単には始められないよ!」って伝えることもあります(笑)。あとはちゃんと続ける覚悟があるかどうかです。

雪の日は眠れない…農家は休む暇なし

__私も農業に興味はありますが、ベランダ菜園レベルでも枯らしてしまいます(泣)。

 

小林:庭の花を枯らしちゃうとか早起きが苦手でも、才能がないわけじゃないですよ!私だってそうだけど仕事だからがんばれるんです。失敗はできないし私がやんなきゃいけないって心の中で常にピンと張っているものがあります。

だから、楽しいよりも不安が大きいし、むしろ最初は不安しかなったです。「いちごは本当になるのか?」って。

 

__やっぱり、初めていちごがなったときは感動しましたか?

 

小林:初めて実がなったときは泣きましたね。一年目は本当に大変で、ここで座って何回泣いたかわからないです。病気や虫にやられたときも申し訳なくて泣きました。でも駄目な時期があっても復活してくれて、復活するってことを知ってからは余裕が生まれました。

勉強もしていればもっとできることがあったと思うけど、研修もしないで何も知らなかったので当たり前ですね。4年繰り返してだいぶわかるようになってきました。知り合いの農家さんが前にこう言っていました。

1年目は無我夢中でがんばって、2年目はよくなって、3年目は手を抜いて失敗、4年目はそれをバネに安定する。

 

__安定するのに4年はかかるんですね、道のりは単純ではないですね。ちなみに、ハウスでの栽培でも自然災害の影響は大きいですか?

 

小林:ハウスでも雪の日は眠れないです。台風のときは中まで水が入っちゃいます。だから夜中に見に来きたりもしますね。雪、台風、病気、虫…不安なことは本当にいっぱいありますよ。

連休もないし一日休めたらラッキーです。年末年始なんて激務ですよ。テレビ見てるときもいちごを詰め続けてる感じです。

 

__本当に休む暇はないですね。大変さがよくわかりました。

 

今年こそは家族で旅行がしたい!

__那珂川町の暮らしはどうですか?

 

小林:好きな人と田舎暮らしをするのは昔からの私の夢でもありました。那珂川町には温泉もあって最高ですよ。でもそれに気がついたのは一昨年で、那珂川町のお湯はこんなに良いんだ!とびっくりしました。本当に今までの温泉とは違う!ってなりましたね。今では週に1〜2回通っていて、仕事がちょっと大変だったときも癒やされてます。

 

__これからやりたいことはありますか?

 

小林:今ハウスが全部で6棟あるので、果樹関係などいろんな種類の作物の栽培をやりたいと思っています。昨年はレモン、トマト、パッションフルーツも栽培しました。

 


これまでよりも少し余裕が出てきたから、これからは自分がこのハウスを振り回す側になります。この時期は休む!って決めて栽培をして、次の夏は絶対に家族で旅行に行く!そう決めてます。

 

 

__小林さん、ありがとうございました! 

取材を終えて

20代で3人のお子さんを育て土地を買い、いちご農業を経営するなんて、想像すればするほど、やっぱり小林さんにはガッツがあるな…と思い知らされます。

でも、厳しい姿勢と同時に、いちごへの愛情と農業への熱い思いが伝わってきます。苦境や困難を乗り越えたからこそ、味わえる喜びがあるのだと感じました。

“就農する”というのは遊びや趣味ではない。やるなら本気でやらなくてはいけない!と実感した今回の取材でした。

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