【ダシマス老舗・荒木組】フライングでスタートを切り、優位性を高める――高校時代に3代目となることを決意した社長の人生哲学
written by ダシマス編集部
創業100年以上の老舗企業に焦点を当てる本企画。持続的な成長と成功をおさめ、時代をまたぎ社会に貢献してきた歴史を紐解き、その長い期間によって培われた文化や知見から、多くの人に気づきとインスピレーションを与えることを目指しています。
岡山エリアから紹介するのは全部で5社。本記事では大正10年に創業し、以来、岡山の建築・土木を支えてきた株式会社荒木組(以下:荒木組)の代表取締役社長である荒木雷太(あらき らいた)さんにご登場いただきます。荒木組は2021年に創業100周年を迎えました。
荒木社長が荒木組を継ぐことを決めたのはなんと高校生の頃。何事も早く取り組むことが成功の近道だと話す荒木社長に、会社の歴史と自身の人生哲学について語っていただきました。
代表取締役社長 荒木 雷太(あらき らいた)さん
1961年岡山市生まれ。大阪大学法学部卒業後、鹿島建設勤務を経て、1989年荒木組入社。専務、取締役副社長を経て、1998年代表取締役就任。2018年一般社団法人岡山県建設業協会会長就任。2020年一般社団法人全国建設業協会副会長就任。社内イベントで自身が披露する社歌ならぬ“社長歌”は竹内力の「欲望の街」。趣味は茶道(裏千家)で師範資格を持つ。
取材:大久保 崇
『ダシマス』ディレクター。2020年10月フリーランスのライターとして独立。2023年1月に法人化し合同会社たかしおを設立。“社会を変えうる事業を加速させ、世の中に貢献する”をミッションとし、採用広報やサービス導入事例など、企業の記事コンテンツの制作を支援する。
執筆:川又 瑛菜(PN:えなり かんな)
フリーライター。求人広告代理店や採用担当などHR領域の経験を活かし、企業へのインタビュー記事や採用広報記事、イベントレポートを中心に執筆している。フランスでの生活を目指してフランス語を勉強中。読書と人文学が好き。
3代目に必要なのはカリスマ性ではなく、経営の専門家であること
――まず、荒木組創業の経緯について教えてください。
大正10年(1921年)4月に私の祖父が弱冠20歳で創業しました。現在は総合建設業として建築工事と土木工事を柱としていますが、創業当時に行っていたのは建築工事のみ。多くの会社が土木工事から始めるなかで、最初から建築工事に取り組んでいたのは少数派だったそうです。
そんな当社のルーツは、お出入り大工。お客様にお引き立ていただき、建築や建物のメンテナンスを専任で行う大工のことです。事業規模が大きくなった今でも、お出入り大工だった頃の姿勢を捨てずに持ち続けているのが当社の強みです。
――そんな荒木組は、一昨年に100周年を迎えられています。100年企業を経営するにあたってどんなことを心がけておられますか。
「経営の専門家たるべし」ということです。
創業者はある種のカリスマです。しかし私は3代目なんですよね。代々継いでいるからといって、3代目がカリスマ性を持っていると過信したらいけません。3代目はただの孫なんですよ(笑)。
だからこそ、私はカリスマ性ではなくて、経営学をずっと基軸に置いてきました。星野リゾートの代表である星野さんが「教科書通りの経営」を提唱されていますが、まったく同じことを私も考えてきました。経営学を勉強し、その通りに実践する。そのために若い頃から準備もしてきました。
――荒木社長が社長になると決めた時のことを教えてください。
私が荒木組を継ぐと決心したのは高校生の時です。会社を継ぐか継がないかの問題は、家業を持つ家に生まれた人間、とりわけ長子はいつか必ずぶつかる壁です。跡取りでない人たちには、将来に対する選択肢が最初から無数にあります。でも跡取りに生まれると、この二者択一の答えを出さないと次に進めません。決めてようやく、跡取りではない人と同じラインに立てるのです。
それならば、できるだけ早く決めたほうが得だと思ったんですよね。そして決断してからは腹を括って、高校を卒業してから28歳までの10年間、会社を継ぐための準備にあてました。法律・経済・経営の3つを抑える必要があると考え、大学で法学部を選択。経済と経営学は独学で勉強し、建築や土木については大学卒業後に他社にお世話になって学びました。
私は何事においても「早く始めるのはいいことだ」という信条を持っています。たとえ走るのが遅くてもトップでゴールするためには、他の人がスタートする前に走っておくことです。スポーツではルール違反ですが、ビジネスでは何事も早く取り組めば、それだけでアドバンテージを発揮できる。実際に経営でも、世の中より3年ほど早く取り組むことを実践してきた結果、今があると考えています。
情報を集めて検討し、世の中の流れを先取りする
――たとえば、どのようなことに3年前倒しで取り組まれてきたのでしょうか。
わかりやすいところでいうと働き方改革ですね。この言葉が生まれる3年ほど前から、働き方改革的な施策を導入していました。他社が取り組み始めた頃には制度としてしっかり整備していたのです。こうした成果があったので、「ホワイト企業大賞」の大賞を受賞したり、厚生労働省から「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」の中小企業部門において最優秀賞をいただいたりすることができました。
先をどれだけ予測できるかに、会社の未来がかかっています。事業や改革などの取り組みは、3年くらい先を走れば成果に結びつきやすい。こうしたことを念頭に置いて、5〜10年先まで予測しつつ、どのくらいのスピード感で進めていくのか考えるのが、代表である私の重要な役割だと考えています。
たとえば、協力業者職長管理能力向上制度「アラキ・アカデミー」も、そうした考えに基づいて始めた取り組みです。これは人口減少に対するアプローチとしてスタートさせました。
人口が減少すれば、就労する職人さんも減少する傾向にあります。当社は実際に工事の作業を行う協力会社と連携しながら仕事を進めているため、売り手市場となっても協力会社の職人さんを確保し続ける必要があります。それは協力会社にとって「レベルの高い職人を育て続けなければならない」という課題であり、頭を悩ませる困り事なのです。
そこで、協力会社とタイアップして困り事を解決しようと考えました。困り事について一つひとつ整理していくと、特に職人さんの育成に困っているとのことだったので、「アラキ・アカデミー」を始めました。取り組みには感謝していただき、安定的に職人さんを確保できるようになっています。
人材の確保がきちんとできるだけでなく、教育が行き届いている職人さんがいることで、「荒木組は質の高い仕事をする」と思われる効果もありました。現場の評価が上がったことで、営業活動にも良い影響が出ています。「今は何とかなっていても、5年後10年後は難しくなる」と考えて、早い段階で手を打っていた結果、顧客開拓から受注獲得、施工面における品質向上まで効果が広がり、当社のビジネスモデルにマッチした形となりました。
――こうした先見の明を持つために、大切なことはなんですか。
外部データや情報をどれだけ取り込めるかではないでしょうか。先を読んで舵を取るのが自分の役割だと考えているので、情報収集と分析は欠かさず行っています。そして情報を集めた上で、今後なにが起きるかを先の先まで考える。どこまで考えを詰められるかが、会社の行く末に関わっていきます。
深く考えて多くの要素を検討することで、他社が簡単に真似できない施策を行う。後から気づいても、その時にはもう追いつくことができません。そのためにも、日々、情報収集を行い深く分析することが大切だと考えています。
――お話を聞いているととても順風満帆に思えますが、一方で大変なこと、代表になって直面した困難などありましたでしょうか。
実は34年前、28歳で荒木組に入社した時が一番の危機でした。当時は、社内に派閥があり、売上が減っていて利益も少なく給料も安い。そして経営層に対する不信感が広がっている状態でした。その中でも社員が一番不満に感じていたのは「見えないこと」だったと思います。経営方針が見えず、評価の基準もありませんでした。目標も権限もはっきりしていなかったのです。
そこでまず、制度の立て直しから始めました。続いてビジネスモデルの方向性を定めて、それに伴う経営理念を策定しました。そしてその理念に基づいた各種施策を行うことで、会社の立て直しを行ったのです。付け焼き刃のような施策ではなく、会社としてやるべきことや必要なことをすべて洗い出し、それをひとつずつ解決していきました。大事なことは十分に時間を要し、すべての施策を実行するまでに5〜6年かかりましたね。
そこから荒木組の強みを発揮して売り上げを伸ばせるようになるのに、さらに10年かかりました。入社後にバブル崩壊もあったので、この期間は本当に長く苦しい時期でしたね。
でも、会社を継ぐと高校生の時に決意した覚悟があったからこそ、自分を奮い立たせ続けて困難を乗り切りました。当時を含めて、代表に就任してから今まで、くじけたことは一度もありません。
また経営理念に沿った社風をつくれているかは、常に気にかけています。目指すビジネスモデルや理念をつくること、そして社風を管理することは経営において非常に重要です。企業のカルチャー管理は、戦略策定や人材教育よりも優先すべき経営陣の一番の仕事でもあります。
企業の不祥事が発覚するたびに、会社の体質が問題になっていますが、あれはすべて経営陣の責任だと考えています。そうならないためには、ビジネスモデルや経営理念とアンマッチな体質になっていないか、常にアンテナを張っています。
裁量と還元を通じてつくる、働きがいを感じる職場
――先ほど働き方改革の話もありましたが、従業員の方が意欲高く働くために取り組んでいることがあれば教えてください。
成果の還元をもっとも大切にしています。当社は利益連動型で、利益が多い時はそれに合わせて還元される仕組みです。そもそもビジネスモデルはきちんと運用すれば必ず利益が出るよう構築しているため、社員に利益をしっかり還元できるシステムが実現できています。そのため社員はやりがいを持って仕事に向き合ってくれているように思います。会社の成果は社長のおかげではなく社員が頑張ったおかげです。みんなで勝ち取ったものはみんなで分けてもらいたいじゃないですか。
また、きちんと評価制度を運用して、その制度の中で評価された人を抜擢することも徹底しています。ただ、エースはつくりません。属人化を防ぐためにも、エースだけが知っている情報や誤った影響力が生まれないように組織体制を敷いています。とはいえ仕事ではチームで動くのでリーダーは必要です。エースはつくりませんが、リーダーの存在は大切にしています。
――リーダーにはどのような素養が必要だと考えられていますか。
まず、「みんなついてこい!」といった姿勢はリーダーシップではありません。一人ひとりにどのような影響を与えるのかが重要で、エンパワーメントの考え方が必要です。メンバーがやる気を持ち、ビジョンに基づいて自主的に物事を考えて行動する。こうした自主性を高めるために積極的に権限移譲し、メンバーのパフォーマンスを向上させるのがリーダーです。
すべての人にリーダーシップの素質はあります。発揮の仕方がそれぞれ違うだけで、誰でもリーダーになれるのです。そこで大事なのが自己理解です。たくさんあるリーダーシップの発揮の仕方から自分はどのタイプなのかを知ること。その上で、それぞれのリーダーシップを発揮することが必要です。荒木組でも一人ひとりのリーダーシップを生かすための取り組みを行っています。
例えば当社は、創立記念日に大小かかわらず多種多様な賞を制定して表彰しています。自分らしいリーダーシップを発揮してもらうために、多くの表彰項目を制定していますし、何よりその項目は社員に考えてもらっています。これからも表彰項目を増やしたいですし、できれば一日中表彰式をしたいくらいに思っていますね(笑)。
表彰項目が増えて表彰を受ける機会が増えれば、それだけ自分の強みに気づく機会も増えるはず。自分の強みに気づくことで自己理解が深まるので、それぞれが持つリーダーシップ性を発揮しやすい環境につながると考えています。
――さらに今後の100年を見据えて荒木組が描いているビジョンがあれば教えてください。
社会がかなりのスピードで変わり続けているので、正直100年後は想像できません。そんな想像もできないような社会に適した会社に変わっていくことが大事だと思います。社員の総力で自律的に変わっていける会社になっていれば素晴らしいですね。
私もこれまで、社会に合わせて会社も変わらなければならないとの考えのもと、さまざまな変革を行ってきました。今でも、部門の廃止や新設など組織的な大変革を数年に一度必ずしています。そうして変わり続けてきたように、これからも変わり続けていきたいし、未来の代表や社員にもそうしてもらいたいですね。
――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
仕事で大切なのは、「誇り」と「働きがい」だと私は考えています。
誇りとは、品格を持って社会的に尊敬され、そして仕事に打ち込むことで生まれるものです。そして働きがいは、権限が委譲されていることで生まれるもの。責任を取れるかどうかが大きく関係します。
荒木組は、課長は課長、主任は主任、一般社員は一般社員なりの権限が決まっていて、その規定に基づいて裁量権を行使できる仕組みになっています。そしてきちんと成果も還元されます。とはいえ、この仕組みが万人に合っているとは限りません。みなさんにとって誇りと働きがいを持って働けるところを見つけていただきたいです。そして、もしそれが荒木組であれば非常にうれしいです。
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◆採用情報:https://www.arakigumi.com/recruit_index.html