“警備”は“接客”──。一瞬の出会いで信頼を築くイベント警備の仕事、その面白さとは
written by ダシマス編集部

愛知県に本社を構える中京綜合警備保障株式会社。同社のイベント警備課で責任者として活躍する宇佐見美香(うさみ みか)さんは、「警備は接客である」という考え方を大事にし、仕事に取り組んでいます。
プロ野球場やコンサート会場で、お客様との「一瞬」の出会いを大切にし、厳格さと柔軟性を兼ね備えた対応で安心安全を届ける宇佐見さん。正しい立ち姿勢から生まれる信頼感、コミュニケーションを重視した現場対応まで、警備の仕事が持つ奥深さと魅力に迫ります。

インタビュイー:宇佐見 美香(うさみ みか)さん
高校時代からプロ野球(中日ドラゴンズ)のファンであったこともあり、卒業後、プロ野球に関わりのある現在の会社でアルバイトを経て入社し、10年以上働いています。仕事とプライベートを両立させながら、趣味のカフェ巡りを楽しんでいます。休日には新しいカフェを探して、美味しいコーヒーと落ち着いた時間を過ごすのが楽しみです。
警備ではなく“接客”。お客様の要望に寄り添うイベント警備の本質
──宇佐見さんが所属する部署と担当されている業務について教えてください。
イベント警備課という部署に所属しています。興行があった際に主催者様から要望された警備内容を計画作成し、現場では責任者として部隊を指揮。来場されるお客様の安全を確保するのが私の役割です。
──貴社の警備のお仕事について、どのような特徴がありますか。
私たちの仕事で大切にしているのは「警備は接客である」という考え方です。警備に抱く一般的なイメージとは違うかもしれませんが、面接の際にも「接客の意味合いが強い仕事です」と必ずお伝えしています。
例えば野球場では、手荷物検査の際にお客様と対話する機会が多くあります。また、場内では迷子対応のように優しい雰囲気の接客が必要な場面もあれば、お客様同士の喧嘩を収めるための対応力が必要だったりと、状況によって求められるものは様々です。
主催者様の要望に応えるだけでなく、来場されるお客様にも寄り添うことが私たちの仕事の本質だと思っています。
──では、そんな現場における「良い警備員」とは。
良い警備員かどうかはまず、姿勢の良さに表れると思います。まずは見た目で評価される部分が大きいので、正しい立ち姿勢で立っているだけで「しっかりした警備員」という印象を持っていただけます。
「正しい姿勢を保つ」と聞くと、簡単に聞こえるかもしれませんが長時間維持するのは体力的にも大変です。お客様からすると「たまたま見た」その一瞬の印象でイメージが決まってしまいます。ほんの数秒でも姿勢が崩れた瞬間を見られただけで、評価が下がることもあるんです。
ですが、そうした考えで警備を行っていると、施設の方から「そうやって立っていただくことで、何も問題が起きない安心感がある」、「施設のセキュリティレベルが高いという印象を持ってもらえて感謝している」という声をいただけるので、そこに大きなやりがいを感じますね。
一瞬の出会いが全てを決める。プロ野球場で見つけた仕事の醍醐味
──宇佐見さんはどのようなきっかけで、このお仕事に就かれたのですか。
高校時代に野球が好きだったというのがきっかけです。卒業するときに大学が決まっていなかったので1年浪人をしようと考えていて、長く働けて稼げるアルバイトを探していたときにこの仕事のことを知りました。
当時としては時給も比較的高く、野球も好きで収入も得られるということで始めたのが最初のきっかけですね。
──アルバイトを経て正社員になられたのですね。宇佐見さんが仕事をする上で、大切にしている考えを教えてください。
私が常に意識しているのは「一瞬」の瞬間です。プロ野球の試合では3万人以上のお客様と一瞬しかすれ違わない中で、明るい笑顔を向けるだけでも「明るい球場だな」という印象を持っていただけると思います。逆に、無表情で歩いてすれ違うと、良くない印象を持たれてしまう方も少なくありません。先程の立ち姿勢と同じですね。
一度会ったお客様と再びお会いする機会はなかなかないので、その短い時間でもプラスの印象を持っていただけるよう、積極的に挨拶することを大切にしています。
例えば手荷物検査の場合、お客様のバッグに触れる時間はわずか1、2秒。その短い接触も、「この警備員の対応は良かった」と思っていただけるチャンスでもあり、逆に「検査が不十分だった」と思われてしまう場面になりうる。そういった一瞬の接点が多い仕事なので、「一瞬」という言葉を大切にしています。
──球場の警備員全員がそのような考え方で取り組むと、来場者の方々の体験も変わってきそうですね。
そう思います。私が野球場の警備をしていて感じるのは、選手たちのプレーだけでなく、スタッフ全体の対応も含めて「球場体験」が成り立っているということです。お客様は入場ゲートから席に着くまで、様々なスタッフと接点を持ちます。その一つひとつが良い印象だと、球場全体の雰囲気も良くなると思うんです。
私たち警備員も、その大切な一部だと考えています。たった数秒の対応でも、お客様の一日の思い出に影響を与えられる、そこが面白みでもあるんです。
トラブル対応から学んだこと。責任者として求められる振る舞い
──これまでの経験の中で、失敗や苦労されたことはありますか。
経験から学んだ大切なことの一つに、対応の仕方によってはお客様との関係が良くも悪くもなるということがあります。あるとき、駐車場が満車になり、お車で来られたお客様に案内していた際、トラブルになってしまったことがありました。隊員とお客様の間でやり取りがあり、最終的に私が責任者として呼ばれたんです。
その時、私は普段の接客と同じような軽やかな口調で「どうされましたか?」と尋ねたのですが、それがかえって状況を悪化させてしまいました。お客様は既に不満を抱えていらっしゃったところに、私の対応が誠意を感じられないものに映ってしまったようです。この経験から、相手の状況や感情に合わせた対応の大切さを学びました。
──その経験は今にどう活かされていますか。
責任者として対応する際には、状況に応じた適切な対応が必要だと気づきました。通常の案内や接客では明るく親しみやすい態度が良いですが、問題が発生している場面では、まず誠実さと真摯さを伝える姿勢が重要です。
最初の印象で話がどう進むかが決まることも多いので、お客様の立場や心情を理解し、それに合わせた対応を心がけています。どのような状況でも、まずは話をしっかり聞いて、その上で最適な対応を考えることが大切だと実感しています。
──そういった場面は、特に新人の方にとっては不安に思われる部分かもしれませんね。
確かに、私も入社したばかりの頃は、トラブル対応に不安を感じていました。対応の仕方がわからないので、できればそういう場面に遭遇したくないと思っていたくらいです。
ですが、当社にはそういったトラブルが起こってもしっかりとサポートできる体制があります。チーフと呼ばれるポジションの方々がいて、全員が無線機を持っているので、困ったときにはすぐに助けを呼べるんです。「○○地点で困っています」と伝えるだけで、すぐに誰かが駆けつけてくれる。この安心感があったからこそ、少しずつ経験を積むことができました。
私自身も今では多くの事例を経験したことで、ほとんどのケースに自信を持って対応できるようになりました。最初は誰でも不安を感じるものですが、経験と周囲のサポートによって、確実に成長できる環境があるので、そこはあまり不安を感じすぎず、思い切って仕事に向き合ってもらえたらと思います。
──今度は宇佐見さんが後輩を支える立場になっているわけですね。
やはり怖いことは怖いと思うので、ケアしてあげないといけないというのは念頭にあります。自分自身の実体験があるからこそ、「ここは大事にしなければいけない」と感じています。私が経験したように、少しずつ経験を積んで成長できる環境をつくることが、今の私の役割だと思っています。
誰もが挑戦できる環境で、新たな警備のカタチを創る
──社として職場環境や人材育成のために取り組んでいることはありますか。
当社では資格取得支援に力を入れています。特に「雑踏警備検定」という資格は、法律で一定数の有資格者を配置しなければならないものですが、会社がその取得をサポートしてくれるのは大きな安心感につながります。
また、「昇任試験」と呼ばれる階級制度があり、段階ごとのステップを通じて成長できる仕組みがあります。例えば入社してからの勤続年数や、ステップごとの経過年数などの基準があります。私は現在下から4つ目の階級ですが、この試験では筆記試験の後に役職者との面接があり、現場でどういう貢献をしてきたかなどが問われます。
単に勤続年数だけで評価されるのではなく、実際の業務経験や実力、貢献度によって評価が可視化されるのはいいことだと思います。「あの人は取り繕って評価されて役職についた」ということがなく、周りからも自分自身も納得できる形で成長できるので。
──一緒に現場で働いている方々についても伺いたいのですが、宇佐見さんの周りにはどんな方たちがいらっしゃいますか。
発想が柔軟な方が多いと思います。私が思ったことをどんどん提案しても、提案すること自体を評価してくれるんです。それを実際に運用するにはどうしたらいいかという話にも前向きに乗ってくれます。
誰かの提案を否定したり、「それは無理だよ」と初めから実現不可能だと決めつけることはありません。「その人が行動する前に相談ができる環境」があるので、「こういうことをしたいのですが、いかがでしょうか」という相談がしやすい雰囲気があります。
──宇佐見さんは今後、どのような人と一緒に働きたいですか。
例えば、隊員として活躍してほしい方でいえば会話が好きな方ですね。自分の考えや気づいたことを素直に伝えられる方、お客様に対して積極的に行動できる人が理想です。困っている方を見かけたらこちらから声をかけられるような、思いやりと行動力があれば、きっと活躍できると思います。
責任者のような立場でも、コミュニケーション能力が特に重要です。チームをまとめる立場なので、自分の感情をコントロールしながら、わかりやすく指示を出せる方が求められます。相手の立場に立って、寄り添いながら指導できる人がチームをより良くすると思います。
──最後に、会社の今後の展望と求職者の方へメッセージをお願いします。
今後は「活気があり、かつ厳格な姿勢が一目で分かるような会社」にしていきたいと考えています。イベント警備の現場では柔らかさや接客に重きを置いていると申しましたが、例えば著名人の楽屋周辺では威厳のある姿勢も求められます。
柔らかい接客ができるけれども、必要な場面では威厳もある。「何かを守るところには向いていないな」と思われないように、それぞれの現場で求められる役割をしっかりと理解し、適切に対応できる。こうした柔軟さが私たちの強みであり、お客様から「この会社はしっかりしているな」と信頼される理由です。こうした二面性も大事にしていきたいですね、
とはいえ、求職者の方には、警備の仕事は決して堅苦しいだけではないということを一番伝えたいです。人と話すのが好きな方、お客様に寄り添える方が活躍できる、意外な面白さがある仕事です。
固定観念にとらわれず、ぜひ一度私たちの現場の雰囲気を感じてみてください。きっと新しい発見があると思います。
(取材・執筆:大久保崇)
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